ベッカム、オーウェンらの引退が持つ意味=イングランドに期待される新時代の到来

東本貢司

同時期に身を引くのは当たり前の現象

2度目の引退となるスコールズ。経験済みのコーチ職に戻ることが決まっている 【Getty Images】

「一つの時代が終わった」――ベッカムとまるで歩を合わせるように現役引退を決めたポール・スコールズとマイクル・オーウェン、さらにはジェイミー・カラガー、そしてたぶん、フィル・ネヴィルまで含めると 当然思い浮かぶフレーズだ。だが、実は的外れの“決まり文句”すぎはしないか? 同世代のアスリートがほぼ同時期に身を引くのはごく自然な、当たり前の現象ではないか。むしろ、たまたまにしろ「5人がそろった」事実から「新しい時代が開かれる予感がする」くらいに踏み込んでみなければ、ジャーナリズムの名がすたる。

 スコールズは経験済みのコーチ職に戻る。オーウェンも指導者への道を志していることを明らかにした。フィルはすでにU−21イングランド代表のコーチ就任を承諾している。カラガーは、英スカイスポーツ・コメンテーターの“先輩”ギャリー・ネヴィルに合流するが、そのギャリーが現イングランド代表コーチだからには、遅かれ早かれ“近い方向”に進むだろう。つまり、彼ら4人の今後は、それこそ同期する運命にあり、彼らの手(ないしはアドバイス)の内から、新たな希望が湧き出てくる期待が膨らむのである。

 実は、ベッカムも同じだ。容姿や人脈からショウビズ界やひょっとしたら政界にまで関わる可能性、期待が皆無とは言わないが、あくまでもそれは余技の範疇(はんちゅう)でしかないはずだ。サッカー、フットボールとの縁が薄れることなど(彼自身の言動からしても)まずあり得ない。あえて言うなら、単に1クラブに集中してしまうのではなく、もっとスケールの違う、場合によってはグローバルな関わり方が予想される。

重要性を帯びる5人の今後の歩み

オーウェンは指導者の道を志していることを明らかにした 【Getty Images】

 ベッカムがこれまでに所属、ないしはプレーしたクラブから、アンバサダー、アドバイザーとしての要請が来るのは十分に考えられる。それに、ロンドン五輪やワールドカップ招致などで立派に務めを果たした経験から、先ごろ新設されたナショナル・トレセン『セント・ジョージズ・パーク』も含め、FA(イングランドサッカー協会)はもとより、UEFA(欧州サッカー連盟)、FIFA(国際サッカー連盟)とも何らかの期間限定職、オピニオン・メーカーのような役割も視野に入る。

 そうすると、どうだろうか。オーウェン、スコールズ辺りもベッカムのお声掛かりで、それらのいずれにも臨時参列することだって考えられなくはないだろう。

 こうした意味合いでこそ、この“クインテット(5人組)”が同時期に現役を退く意義がクローズアップされてしかるべきだと思うのだ。そう考えれば、5人の今後の歩みがにわかに重要性を帯び、楽しみにもなる。個人的にも、この“グランドヴィジョン(基本構想)”が近い将来に兆しだけでも形を取り始めてほしいものである。

 ただし、その前でも後でもいいが、ずっと“ささやかな夢”もかなってくれるといいな、と勝手に考えている。いつか、これから数年先には身を引くはずのライアン・ギグスと、ベッカム、スコールズ、ネヴィル兄弟(何なら、オーウェンも)が、ほんの一時的でもいいから、マンチェスター・ユナイテッドのコーチングスタッフとして、オールド・トラッフォードやキャリントンの練習場で、旧交を温める日々が来ないだろうか、と。もちろん、そのグラウンド、ピッチを離れて見下ろす窓の一つから、サー・アレックス・ファーガソンがにこやかに、ときにはぶぜんとして、眺めている姿とともに。

<了>

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著者プロフィール

1953年生まれ。イングランドの古都バース在パブリックスクールで青春時代を送る。ジョージ・ベスト、ボビー・チャールトン、ケヴィン・キーガンらの全盛期を目の当たりにしてイングランド・フットボールの虜に。Jリーグ発足時からフットボール・ジャーナリズムにかかわり、関連翻訳・執筆を通して一貫してフットボールの“ハート”にこだわる。近刊に『マンチェスター・ユナイテッド・クロニクル』(カンゼン)、 『マンU〜世界で最も愛され、最も嫌われるクラブ』(NHK出版)、『ヴェンゲル・コード』(カンゼン)。

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