ファーガソンとモリーニョの異なる去り際=称賛と遺恨を残したそれぞれの最後

結果を出すも、多くの遺恨も残したモリーニョ

ファーガソンとは対照的に多くの遺恨を残してクラブを去ることになりそうなモリーニョ。彼は多くの敵を作り過ぎた 【Getty Images】

 くしくもファーガソンの後継者候補の1人と言われてきたレアル・マドリーのジョゼ・モリーニョは、その対照的な例だと言える。レアル・マドリー退団が濃厚となった今、彼に残された行き先は古巣のチェルシー、もしくは成長著しいパリ・サンジェルマンしかない。

 レアル・マドリーを率いた3シーズンでモリーニョはまずまずの仕事を果たした。この3年間でレアル・マドリーのプレーは向上し、彼が率いてきたほかのチームと同様にソリッドな集団となった。

 ファーガソンにとってのリバプールと同じく、モリーニョも就任当初はフットボール史上最強とまで言われたバルセロナの壁に苦しんだ。だがモリーニョは宿敵に全く歯が立たない状況から、ついにはそのプレーを封じ込める戦い方を見出すに至った。

 一方でモリーニョは周囲と良好な関係を築くことができず、常に大多数のスペインメディアと衝突を繰り返し、結果として自身だけでなくレアル・マドリーのイメージまでも悪化させてきた。

 モリーニョはファーガソンとは異なる性格の持ち主だ。頭が良く、細部までこだわる完璧主義者であるにもかかわらず、彼は周囲と良好な関係を保つために必要な器用さを持たない。もしくは、持とうとしないと言った方が正しいかもしれない。なぜならモリーニョは、まるで自分が強くなるためには世界中を敵に回す必要があるかのように、どこへ行っても自らを悪役の立場に追いやってしまうからだ。

チーム内に支持する選手は5人もいない

 あらゆるものを敵に回すモリーニョのやり方は周囲に多大な消耗を強いる。とりわけその被害を受けたのが自軍の選手たちであり、ゆえにモリーニョはロッカールーム内での出来事が一部メディアにリークされる度、神経質なまでに“裏切り者”を探すようになっていった。そうやって選手たちとの溝は次第に深まり、遂にはキャプテンのイケル・カシージャスとセルヒオ・ラモスがフロレンティーノ・ペレス会長に対し、指揮官が続投するならば自分たちがクラブを出ていくと直談判するまでに至った。

 はじめは第2GKのアントニオ・アダンに、その後は自身の負傷中に加入したディエゴ・ロペスに定位置を奪われたカシージャス、そして以前はモリーニョに忠誠を誓っていたペペがカシージャスを擁護したとたんに受けはじめた不遇は、現在のチーム内に漂う緊張感を表す一例だ。もはやチーム内にモリーニョを支持する選手は5人もいない。そのためか、最近のモリーニョは練習中に選手たちと一言も言葉を交わさないことも珍しくなくなっている。

 クラブを真のエリートに磨き上げたファーガソンに対し、モリーニョは多くの傷口を残したままクラブを出ていくことになる。2人の異なる去り際は、両クラブの今後にも少なくない影響をもたらすだろう。

<了>

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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