「55」の後継者・大田泰示の現在地=宿命と戦い続ける“未完の大器”
歴史的セレモニーの中で向けられる視線
さらに始球式の際に、松井氏が約10年ぶりに巨人軍のユニホームに身を包んでグラウンドに再登場すると、父・昌雄さんが「そのままバッターボックスに立つんじゃないのかと思った」と振り返ったように、多くの人々がノスタルジックな感覚にとらわれた。
そして、この歴史的セレモニーを終えると、ファンの間で松井秀喜という男の偉大さが再認識されると同時に、野球ファンの目は“彼”に向けられる。巨人軍の“現”背番号「55」大田泰示だ。
鳴り物入りだった。身長188センチ、体重90キロ(ドラフト指名時)の恵まれた体格に高校通算65本塁打の長打力を搭載し、さらに50メートル6秒1の俊足と投手として球速147キロを計測した強肩を備える大型内野手として称賛され、「中田翔クラス」、「高校時代の清原に匹敵する」、「和製ジーター」などの宣伝文句が数々躍った。そして原辰徳監督から背番号「55」を与えられ、「松井の後継者」として巨人に迎え入れられた。だが、現時点では1軍通算57試合に出場して124打数の25安打の打率2割2厘、2本塁打、12打点。期待を寄せていた者たちを納得させることは、いまだできていない。
勝負のシーズンでまさかの出遅れ
今季は勝負の年であり、絶好のチャンスが到来していた。大田自身にも自信があった。
「オフの自主トレを阿部(慎之助)さんと一緒にやらせてもらって、いろんな話を聞かせてもらった。それまではただガムシャラにバットを振るだけだったのが、配球とかシチュエーションとか、いろいろと考えられるようになった。筋肉もついて体重も増えた。バットも振れている」
WBC組不在の春季キャンプでは、原監督から新1番打者として期待を受けたが、まだ経験の浅い外野守備での消極的なプレーに、肝心の打撃でも7打席連続三振を喫するなどの大スランプ。それでも開幕1軍メンバーに名を連ねたが、シーズン初出場となった試合で代走の末にけん制死に倒れると、その後もスタメンと代打を繰り返しながらチャンスをもらったが、34打席で単打のみの5安打、打率1割7分9厘、0本塁打、2打点と低迷。ついには、右太もも裏の違和感で5月2日に1軍登録を抹消されてしまった。
チャンスはあった。もしかしたら今ごろは不動のレギュラーに定着としていたかもしれない――。ご法度ともいえる“たられば”表現で振り返りたくなるほどに、痛い出遅れだった。
戦いは始まったばかり
ちなみに近年、チームの中軸に定着した“高卒和製大砲”を振り返ってみると、埼玉西武の中村剛也は4年目に22本塁打を放つも、その後2年間は低迷。ようやく7年目に46本塁打を放って地位を確立した。北海道日本ハム・中田翔は3年目にプロ初アーチを含む9本塁打を記録し、4年目に18本塁打を放つと、5年目に不動の4番として24本塁打をマークした。オリックス・T−岡田は4年目にようやくプロ初アーチを含む7本塁打を記録すると、5年目に33本塁打を放ってブレークを成し遂げている。
大田は今季でプロ5年目。まだまだこれからだ。後半戦も残っている。背番号「55」の継承者として、大きく偉大な“前任者”の背中は遠いが、その宿命を背負えるのは彼しかいない。大田泰示、いまだ22歳――。彼の戦いはまだ始まったばかりだ。
<了>
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