ファンを惹きつける佐藤琢磨のエネルギー=赤井邦彦の「エフワン見聞録」第5回
不思議な存在感
レースへ挑む姿勢
だからだろう。私は今回の佐藤の勝利を聞いても、達成感が少なかった。他人の勝利を見て達成感というのもおかしな話だが、今回の勝利も彼の他のレースと同じレベルに感じられたのだ。それは、「次のレースでは、佐藤はもっとすごいことをしでかすのではないか」と我々に期待を持たせるようなレースだったからだ。優勝以上にすごいこと? それはいったい何なのだろう? それが何かは分からないが、佐藤がいつのレースであっても今回と同じような充実したレースを行っている証と言えるだろう。非常に深度のある、重い、エネルギーに満ちたレース。それが、佐藤が常に心がけてきたレースである。日本でレースをすることなく、日本人ファンと共有するものを持たずに海外で戦いながら、その間に彼は猛烈に純度の高いエネルギーを発していたのだ。佐藤琢磨の価値はそこにあり、ファンがファンでいることに満足感を覚える理由なのだろう。
では、今回勝ったことで彼は変わるだろうか? 変わるだろうし、変わらないだろう。大きな偉業を成し遂げて変わらなければ人間ではない。しかし、次のレースもこれまでと同じように戦うはずだ。それが佐藤琢磨にとって重要なことだからだ。
<了>
『AUTOSPORTweb』
【AUTOSPORTweb】