バイエルンが予感させる黄金時代の到来=バルサテイストの融合がもたらす変化とは

中野吉之伴

ゴールへ近づくための遠回り

来季からバイエルンの指揮を執るグアルディオラ氏は、今のバイエルンサッカーにどのような変化をもたらすのだろうか 【Getty Images】

 もちろんバルセロナを語る上で彼らの究極のポゼッションサッカーを忘れることはできない。守備ラインからのビルトアップ能力に加え、中盤からアタッキングサードにかけてのポゼッションはどの相手クラブをも凌駕する。

 通常、選手はスペースに入り込み、ボールを受けることを求められる。スペースとは選手と選手の間に生まれるもの。しかし、置物ではない相手選手が密集するエリアで、ただパスを通そうとしても、相手に簡単に読まれてしまう。正確なパス技術はもちろんのこと、パスを出す前の諸動作で相手選手が足を出せないタイミングを作り出す駆け引きのうまさが必要だ。

 そもそも攻撃において、ゴールへの近道は中央突破だ。それを相手も理解しているから、中央の守備は固められる。そこで比較的スペースのあるサイドに展開して、起点を作ろうとするが、それはあくまでも相手の中央の守備を揺さぶるための起点である。単純にサイドに展開し、そこからのクロスだけでは、組織された相手守備を崩すことは難しい。だからこそ、サイドで優位な状況を作り、相手の意識をそこへ向かわせ、本来守らなければならない中央への集中力を削がせる。それが狙いだ。そのためにはパス交換の距離と方向、スピードを変えていくことが重要になる。短いパスをつないだら、大きくサイドチェンジ。ゆっくりとしたリズムから、急激なテンポアップで縦パスを入れる。外、中、外とエリアを代えながらパスをつなぐ。そして選手が連動して動き、相手DFを引きつけて味方のためにスペースを使い、そのスペースにタイミングよく入り込んで、ボールを受けることが求められる。

適応できる選手できない選手

 以上を踏まえて考えると、現状のバイエルンでグアルディオラのサッカーに対応できそうなレギュラークラスの選手はマヌエル・ノイアー、フィリップ・ラーム、ボンフィム・ダンテ、デビッド・アラバ、バスティアン・シュバインシュタイガー、ハビ・マルティネス、ミュラー、マリオ・マンジュキッチが挙げられる。ビルドアップ能力に難のあるファン・ブイテンやジェローム・ボアテング、個人技への傾向が強いリベリーやロッベン、前線での守備バランスにまだ難のあるトニ・クロース、前で張ることしかできないゴメスといった選手は難しいのではないだろうか。

 リベリー、ロッベン、クロースの3人は以前に比べるとオフ・ザ・ボールの質は上がったが、自分の勝負したいエリアに固執することがまだ多い。ビルドアップの局面でも仕掛けの意識が強すぎるリベリーとロッベンは、簡単にパスをはたくよりも単独突破を選択しがちなので、チームとしての仕掛けのリズムを壊すことがある。

 ボールを失ったあとのプレッシングも無謀なタイミングで当たることが多いクロースに関しては、プレスに入るタイミングとスピードが遅いというのがマイナスポイントだ。逆にゲッツェやシェルダン・シャキリといった選手は問題なくフィットするだろう。

 センターバックにはドルトムントのマッツ・フンメルスクラスがほしいところだ。またバイエルンはドルトムントのロベルト・レバンドフスキ獲得も間近と言われているが、高さがありスペースの作り方もうまいレバンドフスキの加入はマンジュキッチとはまた別のバリエーションをチームに与えることになる。バルセロナの時とは抱えている選手が異なる以上、全く同じようなサッカーにはならないだろう。

 しかし、CLで強さを見せつけているバイエルンもまた、グアルディオラの手によってバルセロナテイストが加えられて変化していく。バルセロナテイストとの融合を果たしたバイエルンサッカーが、どのようにヨーロッパのサッカーシーンに影響を与えていくのか。来季1番の見所といえるのではないだろうか。

<了>

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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