120%は難しい…マラソン安全確保の課題

及川彩子

安全対策に掛かる莫大な費用

 ボストンマラソンでの事件を受け、ニューヨークロードランナーズのメアリー・ウィッテンバーグ・レースディレクターは「ランナーの安全対策が最優先」と、東京マラソンも東京マラソン財団の桜井孝次理事長名で「東京マラソンでは、不測の事態に関しては、警視庁や消防などの警備・救護当局の指導を仰ぎながらあたっておりますが、今後も引き続き十分な連携を取って備えてまいります」と声明を発表。他のマラソンも同様の声明を次々と発表している。

 しかしニューヨークの場合、「安全対策」に莫大な費用がかかり、それがランナーたちを圧迫している。
 ニューヨークシティマラソンの経済効果は3億4000万ドル(約330億円)とも言われ、そのためニューヨーク市も全面的に協力してきた。だが11年3月以降、ニューヨーク市警による警備費用をニューヨークロードランナーズが負担することになり、レースの参加料が爆発的に跳ね上がった。超過勤務や非番の警官への費用を市民の税金でまかなうのではなく、レースを走るランナーに負担してもらうという姿勢だ。
 ちなみに08年の出場料は185ドル(18000円)で、11年まで10%ほどの値上がりをしたが、警備費の負担の増加により、12年には255ドル(25000円)まで上昇している(※米国在住者の参加料)。「ニューヨークシティマラソンの出場料は高すぎる」という声をよく耳にするが、安全対策にはそれくらいの費用が掛かるのだ。

 参考までにワールドマラソンメジャーズ(WMM)の各レースの出場料を見ると、東京マラソンが1万円(13年)、ボストンが150ドル(13年、約14400円)、ロンドン100ポンド(13年、約15000円)、ベルリンは60〜90ユーロ(13年、約7700円〜11500円)、シカゴは170ドル(12年、約17000円)、ニューヨークは255ドル(12年、約25000円)とばらつきがある。米国以外の3レースは、開催都市の全面的なサポートがあるため、出場料が抑えられていると思われるが、今回のボストンの件を受け、さらなる警備の強化が必要な場合、出場料の値上がりは避けられないだろう。

 マラソンや自転車レース、トライアスロンなど、公道を使ったレースでは、参加者の預け荷物に関する規制も強化されるはずだ。7月に行われるニューヨークトライアスロンでは、荷物は透明のバッグに入れることを義務付けた。またニューヨークシティマラソンは、50万ドル(約4800万円)の経費を抑えるために、12年に預け荷物のシステムを廃止したが、経費だけではなく、安全の点からも廃止や有料化は進むのではないだろうか。また沿道の観客にもランダムな手荷物検査があったり、バックパックなどの大きな荷物の持参を控えるような規制がかけられるかもしれない。

21日はロンドンマラソン 安全な大会運営を祈って

 今回、ボストンマラソンが狙われたのは、多くの人が集まり、手荷物検査などがないイベントだったからだろう。そう考えると、日本でも程度の差はあれ、同様の事件が起こる可能性は否定できない。これまでマラソンや駅伝、自転車レースなど公道を使ったスポーツイベントは、相互の信頼関係と善意によって成り立っていたと言っても過言ではない。
 だが今回の事件を機に、主催者や警察は、「何かが起きるかもしれない」ことを常に想定して大会運営をしなければならなくなった。120パーセントの解決策がない難しい問題だが、国内だけではなく海外のレース主催者、警察などと情報や意見交換をして、このような痛ましい事件が二度と起きないように努力してほしい。
 
 今週末の21日にはロンドンマラソンが行われる。ボストンの事件に加えて、17日に行われたサッチャー前首相の葬儀、また05年に地下鉄とバスの同時爆破事件があったこともあり、市内の警備は超厳戒態勢が敷かれている。何事もなく、無事に終わることを願うばかりだ。

 最後に、ボストンマラソンで亡くなられた方々のご冥福と、被害に遭った方々の一日も早い回復をお祈りしたい。

<了>

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著者プロフィール

米国、ニューヨーク在住スポーツライター。五輪スポーツを中心に取材活動を行っている。(Twitter: @AyakoOikawa)

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