指宿がベルギー2部で見せる精神的成長=チーム得点王として多国籍軍団をけん引

中田徹

アフリカ人だらけのチームとなったオイペン

指宿(中央)の所属するオイペンは多国籍軍団。中でもアフリカ系の選手の比率が高い 【写真:アフロ】

 近年、ベルギーの上位チームは攻撃サッカーを志向しているが、中位から下は守備を固めたカウンターサッカーで、後方からのロングボールを多用するサッカーをしている。そんな中で、2部リーグ7位のオイペンが、ポゼッションを高めながら、ひたすら攻撃を仕掛けるスタイルのサッカーを徹底しているのはとてもユニークだ。チームの結果を追い求めるとともに、“個”の力を伸ばす育成型のサッカーをしているように感じられるのである。

 オイペンのサッカースタイルが変わったのは2012年6月、カタールのアスパイアー・ゾーン・ファウンデーションがオイペンを買収したことから始まる。アスパイアー・ゾーン・ファウンデーションは04年、カタールにスポーツ文化を根付かせることを目的として設立された。また、サッカーに関しては、アフリカ、アジア、ラテンアメリカにおける途上国のタレントを発掘し、育成する『アスパイアー・アカデミー』を運営している。07年以来、彼らは300万人に上る少年のテストを実施したという。

 7月、アフリカ人選手15人のオイペン入団が決まった。かつて1.FCケルンのユース育成責任者を務めたヘンケルCEOは「選手は全員18歳。5年間、アスパイアー・アカデミーにいた。彼らにとってオイペンは、プロになるための最終段階。プロフェッショナルな環境の中、選手たちはプロフェッショナルとしての要求に応え、プロフェッショナルとして成功しないといけない」とその意図を語った。

 オイペンがカタールのファウンデーションの持ち物となり、アフリカ人だらけのチームになってしまった。そこでベルギー人が思い出すのはベベレンのことである。06年から10年にかけてベベレンは大量のコートジボワール人を獲得し、10人のコートジボワール人がピッチに立つこともあった。そこからヤヤ・トゥーレ、エマヌエル・エブエという選手が羽ばたいていったが、やがてベベレンはクラブとしてのアイデンティティーを失ってしまった。

チームの形ができ、変わり始めたファンの反応

「われわれはベベレンと違う。オイペンは、しっかりひとつのチームを作る」(ヘンケルCEO)。その言葉に真実味があるのは、指宿が言うように「コンセプトがあって11人が動いていく」という証言からも分かる。

 もうひとつ懸念されるのが、アスパイアー・ゾーン・ファウンデーションは、アカデミーの選手を将来カタールに帰化させて、2022年ワールドカップ(W杯)の強化につなげるべく、オイペンを利用するのではないか……ということだ。

「W杯を見据え、選手たちをカタールに帰化させるのがわれわれの目的ではない。彼らはカタールリーグではなく、ヨーロッパでブレークを果たさないといけない。そして彼らはいずれ、自分の国の代表選手としてプレーしないといけないんだ」とヘンケルCEOは力説したが、選手の意志によってはここから将来のカタール代表選手が生まれるかもしれない。

 カタールの財団所有で、スペイン人のテクニカルスタッフによる多国籍軍団のオイペン。それだけにファンの反応も「やっぱり最初の方は難しかったですね。いろんな国の人がいますし、去年から半分ぐらいメンバーも代わり、会長も監督も代わったので」(指宿)と複雑だったようだ。しかし、シーズンが進んで行くとともにチームとして形になっていったオイペンに対し、サポーターも試合を楽しむようになった。オウデナールデ戦の勝利の後、イレブンたちはサポーターとハイタッチを交わしながら場内を一周し、喜びを分かち合っていた。翌朝、酔っぱらって鍵をなくして家に入れなくなってしまったサポーターは、「4−1! 素晴らしい夜だった」とまだ余韻が冷めていなかった。

 さらにオイペンにはGKフセイン(アルサド)、指宿といった期限付き移籍の選手もいる。
「オイペンでは年長のひとりとして、自分がチームを引っ張るしかなかった。ベルギーで精神的に成長したと思います」と語る指宿とセビージャの契約はあと1年。来季のことはスペインに戻ってから決めるという。

<了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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