プロ野球、3時間半ルール撤廃で「戦力層が重要に」

ベースボール・タイムズ

“負けないため”から勝利のための采配に

総力戦が増え、4時間を超える試合が今季すでに9試合に上るプロ野球。写真は11日の試合でサヨナラ本塁打を放ち、笑顔で本塁に向かうソフトバンク・松田 【写真は共同】

 どちらも譲らず延長へと突入。時計の針は23時を回る。帰りの路線の終電が脳裏にチラつくも、目の前で繰り広げられる激戦からその場を離れられない。ここまで来たら勝ち越しの瞬間を、サヨナラの歓喜の時を、自分の目で観たい――。
 昨年では起こりえなかった、こんな胸躍り血湧くような場面が、今年は多く見られる環境へと戻ってきた。WBCに世間の注目が集まっていた3月上旬に発表された『3時間半ルールの撤廃』によってだ。

 開幕早々から“ドラマ”は起こった。
 千葉ロッテが開幕から2夜連続でのサヨナラ劇。いずれも4時間を超える展開の末のドラマだった。また4月5日、阪神の新守護神・久保康友が4イニングを投げ、延長12回に福留の日本球界復帰1号で勝利した広島との激戦は、実に5時間を超える熱戦。そして前日の11日、ヤフオクドームで行われた福岡ソフトバンク対オリックスとの一戦では、どちらも譲らず延長へと突入し、延長11回裏、ソフトバンクの4番・松田宣浩にレフトポール直撃の一発が飛び出すサヨナラ劇。この試合も4時間を超える総力戦だった。

 昨季のように“負けないため”に1分1秒を奪い合うような細かな策略は無くなり、もっともっと野球の魅力の根本にある、試合に集中できる環境が今季は帰ってきた。
 9回表を終えて同点。代打を使ったために投手交代。打者を1人抑えたところで試合時間3時間25分――。ここで昨季なら、再度投手を代え、「3時間半を超えたら次の回は行わない」というルールの下に、試合に負けないという選択肢を選ぶことが起こりえた。しかし、今年、その選択肢はない。次の攻撃を想定し、守備に不安がある選手でもすぐには下げられない。チームの勝利のために思慮を巡らす首脳陣の采配の妙も、昨季以上に見ものとなる。

「タイムアウトのない試合のおもしろさ」

 もちろん、良いことばかりではない。決着がつかぬ限りは12回まで試合が行われるため、リリーフの負担は増える。前述の久保のように、今季は勝ちパターンの投手のイニングをまたぐ投球も増えた。「より戦力層が重要になってくるでしょう」とは、某プロ野球解説者。制限無しの戦いが、チームの負担を増やすことになる。また、この施策が導入されたのは震災による電力供給問題からであった。野球界の節電については、引き続き真摯(しんし)に向き合うべきだろう。

 昨季はわずか16試合しかなかった4時間を超えるゲームが、今季は4月11日の試合を終えた時点で早くも9試合。この数字がそのまま魅力につながるというわけではないが、より多くの総力戦を生むことには違いない。

 あだち充の野球漫画『H2』にこんなセリフがある。

「タイムアウトのない試合のおもしろさを教えてあげますよ」

 時間制限が無いことが、野球というスポーツの魅力のひとつでもあることを、野球愛好会に所属する主人公が、野球を侮辱したサッカー部相手の練習試合で追撃の満塁弾を放ち、言い放った名セリフだ。

 2013年のプロ野球は、最後まで息の抜けない戦いが続く、そしてドラマ性に溢れたタフな1年となりそうだ。

<了>

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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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