木下康介、独でトップ昇格志す鍛錬の日々=U−19フライブルクで成長続ける逸材

中野吉之伴

求められるプレーインテリジェンスの向上

 日本では財政的なこともあり、セカンドチームを持つことが困難とされている。ブンデスリーガでもすべてのクラブが有効に活用しているわけではない。しかし、クラブ予算がブンデスリーガ最低ランクのフライブルクは、選手育成こそが生き残るための道だった。

 選手の力を最大限に引き出すためには、U−23チームまでを有効に使う必要がある。フライブルクでは各年代間でサッカーの差はもちろんあるが、U−19とU−23の差は非常に大きいと見ている。「フィジカルの数値は大体がU−19までに落ちつく。U−19とU−23で見られる違いはメンタルの部分だ。U−19までは味方も対戦相手も同年代だが、U−23ではさまざまな経験を持った選手を相手にしなければならない。これまで各年代で主力としてやってきた選手が、年上の選手とともにプレーすることを学ぶことがまずひとつだ。

 さらに彼らがプレーする3部、あるいは4部リーグには、ブンデスリーガのU−23チーム、元プロ選手を多く所有する古豪クラブ、全国的に知られていないアマチュアクラブなど、さまざまな種類のクラブがある。そういった駆け引きに富んだ、手練のベテラン選手を相手にいかに対抗していくか。これがU−23に上がってきた選手が、まず直面する問題だ」とシュトライヒはA級ライセンス指導者向けの講習会で話していた。

 そして「相手のシステムや戦術、時間帯やリーグでの順位。様々な状況が絡みあうゲームの中で、瞬時に今すべきことを判断し、実行に移せなければならない。プレーインテリジェンスを磨くことがU−23では重要になる」とシュトライヒは説明していたが、木下に求められているのもこの部分ではないだろうか。

トップデビューは「俺次第」

 ドイツを始め、海外に渡る選手は、ポジショニング、チェックに当たるタイミング、ドリブルで仕掛けるタイミング、スペースでボールを受けるための諸動作など、その国のサッカーに順応するのに時間がかかる。例えば守備の局面で、「この選手はドリブルで来るのか。あるいはパスで来るのか」という単純な選択肢を求められる場面があるとする。日本のようにパスを主体とするサッカーの国では、パスを警戒しながらドリブルにもケア、という優先順位をつけることが求められると思うが、ドイツではドリブルで突っかけてくることが多いので、まずドリブル突破を警戒し、パスもケアするようになる。逆に攻撃の場面では、DFはこちらのドリブル突破をケアして当たってくるので、突破しようとして味方に預け、スペースに動き直してボールを受けるという動きが有効になる。ドルトムントで成功した香川真司(現マンチェスター・ユナイテッド)はこの辺の駆け引きが非常にうまかった。

 木下は、日本ではなく海外に出てきた自分の思いを「海外に来たかった。もともと海外志向でした。テレビでも世界のリーグ見ていたし、来たいなと思っていました。今はここが好きですね。ドイツ、すごく良い雰囲気だなって。ここが一番じゃないですか、俺の中で。ブンデスリーガとプレミアリーグがいいな」と話した。トップデビューを飾る日はいつ来るのか。

「それは俺次第じゃないですか」と言葉に力を込めた。来季以降、経験を積むためにU−23に進むかもしれない。あるいは成長が認められ、トップチームに合流できるのかもしれない。それはまだ誰にもわからない。今はただ、その日が来ることを願いながら、一日一日、真剣に自分と向かい続けていく。

<了>

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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