快進撃を続けるオランダが遂げた進歩=圧倒的な実力を見せたルーマニア戦

中田徹

“運”に助けられたW杯予選のスタート

エストニア戦からきっちり修正し、持ち味のドリブル突破からアシストを記録したロッベン(右) 【VI-Images via Getty Images】

 オランダの快進撃が止まらない。彼らは3月26日、アムステルダム・アレーナで攻撃サッカーの神髄を発揮し、ルーマニアを4−0で下した。これでオランダは2014年ブラジルワールドカップ(W杯)予選6連勝。ハンガリー、ルーマニア、トルコといったくせ者たちが入ったグループDだけに、若返りを図るオランダにとって苦戦は必至と思われていたが、実際には得点20失点2、得失点差+18という圧倒的な強さを見せている。
 今から半年前、トルコとのW杯欧州予選の初戦を思い返すと、本当に今のオランダは成長している。昨年9月7日、やはりアムステルダム・アレーナで行われたトルコ戦は、スコアの上ではオランダが2−0と快勝したが、GKティム・クルル(ニューカッスル/イングランド)、DFダリル・ヤンマート、マルティンス・インディ(ともにフェイエノールト/オランダ)、イェトロ・ウィーレムス(PSV/オランダ)、MFヨルディ・クラーシー(フェイエノールト)といった若き守備陣はミスに継ぐミスを重ねていた。あの試合のオランダは“運”も味方してクリーンシートを達成したのだ。

「オランダサッカーの文法」に従った一戦

 しかし、今回の“4−0”は、選手たちのパフォーマンスを正確に反映したスコアだろう。4日前、オランダは3−0でエストニアを下していたが、いくつかの修正すべきポイントがあった。

 例えば右サイド。2アシストを記録したヤンマートは後半、勢いに乗ったプレーでチャンスを作り続けたが、「できれば前半から積極的にプレーしてくれれば……」という感想も多かった。右ウイングのイェレマン・レンス(PSV/オランダ)がブレーキになったのは、レンス自身の調子が今ひとつだったのかもしれないが、前半、ヤンマートのサポートを受けられなかったことも無縁ではなかった。しかし、ルーマニア戦の右サイドはキックオフからフルパワー。12分、オランダはファン・デル・ファールト(ハンブルガーSV/ドイツ)のシュートで先制したが、これは右サイドから生まれた3度目のチャンスだった。

 そして、左サイドのアリエン・ロッベン(バイエルン/ドイツ)もポジショニングを修正した。オランダは3トップの国だが、それは単に優秀なアタッカーを並べているだけではない。『オランダサッカーの文法』では、3トップをなるべく高く、しかも広くポジショニングを取ることで、味方のMFやDFがプレーしやすいスペースを作っているのである。サッカー選手というのはスペースがあると、そこに走って行ってしまう性質を持つ。だが、オランダではあえてそこを空けておいて、例えばセンターバック(CB)のドリブルインを促して中盤で数的優位を作るお膳立てをしているのだ。

 エストニア戦のロッベンは自分の感覚に従ってプレーし、オランダサッカーの文法を破ってしまった。ファン・ハール監督は「ロッベンは高い位置にポジショニングを取らなかったし、頻繁に右サイドへ行き過ぎた」と試合後、注文を付けていた。しかし4日後、ルーマニア戦でのロッベンは、左サイドの高い位置に張り付き、サイドバックのダレイ・ブリント(アヤックス/オランダ)の攻め上がりを助けるなど、ボールの無いところでのプレーの質を上げていた。

 中盤でセンターハーフを務めたデ・グズマン(スウォンジ・シティ/イングランド)も、献身的なプレーを見せた。GKケネト・フェルメール(アヤックス)がボールを持ったとき、オランダのCB2人は、ルーマニアの選手2人にマークされているから、デ・グズマンは下がり気味のポジションでボールをもらいにくる。しかし、そのコースを消された場合、フェルメールはリスクを犯さず、前線にロングボールを蹴る。この場合、オランダが一発でボールを収める確率は低くなるからセカンドボールの競り合いが勝負になる。そこでデ・グズマンは毎回ロングスプリントでこぼれ球を拾いに献身的に走り続けていたのだ。
 
 ロッベンが狭いスペースで相手を2人抜いてクロス。それをニアポストでロビン・ファン・ペルシ(マンチェスター・ユナイテッド/イングランド)が弧を描くようなバックヘッドで美しく決めた2点目のプレーに代表されるように、オランダの魅力はスーパースターによるビッグプレーだ。しかし、それを引き出すのはボールの無いところでのインテリジェンスな動き。それが攻守の安定につながっている。半年前のトルコ戦での“2−0”は運も味方したが、今回のルーマニア戦の“4−0”は必然の結果。ファン・ハール監督が「私が就任して以来、ここまでのベストゲームだ」と評したのも道理だろう。

<了>
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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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