バルサとミランの勝敗を分けた“1分間”=歴史的大逆転を生んだインテンシティー

工藤拓

ニアングのシュートが決まっていれば

ミランはニアング(白)のシュートが決まっていれば形勢を逆転できたが、無情にもゴールポストに阻まれた 【Getty Images】

 そして38分、ミランは試合の流れを変える千載一遇のチャンスを逃してしまう。ハイボールの目測を誤ったハビエル・マスチェラーノが頭でボールを後方に流してしまい、抜け出したムバイ・ニアングがドリブルで独走。だが、ビクトル・バルデスを前に放った彼のシュートは非情にも左ポストにはじかれた。

 バルサの追加点が生まれたのはその1分後のことだ。敵陣でアンドレス・イニエスタがマッシモ・アンブロジーニからボールを奪い、ペナルティーエリア手前のメッシへパス。受けたメッシは飛び込んだフィリップ・メクセスのまた下を抜く低いシュートをゴール右隅に突き刺した。

 1分間のうちに生じたこの2つのプレーが勝負の分かれ目となったのは間違いない。ニアングがこのチャンスを決めていれば、最低あと3ゴールが必要になるバルサとの心理的な形勢を再度逆転できていたはずだからだ。

 それだけに、ミランとしてはこのビッグチャンスを得たのが直前の国内リーグで負傷したジャンパオロ・パッツィーニではなく、マッシミリアーノ・アレッグリ監督が「彼はまだ18歳」とかばった経験の浅いニアングだったことは不運だった。さらにはその直後にエル・シャーラウィのクロスをブロックしたピケのハンドが見逃され、その流れでメッシの追加点が生まれたのだから、この日のバルサは勢いに加えて運にも恵まれていたと言える。

取り戻したインテンシティー

 とはいえ、運だけで引き寄せた勝利でないことは言うまでもない。

「今、チームが失っているのは魔法ではなくインテンシティー(強度)。ボールを失った瞬間からライバルに食ってかかるどん欲なプレスなんだ」

 試合前日に発行された『エル・ムンド』紙のインタビューの中で、D・アウベスはチームが不調に陥った原因をそう説明していた。そして彼は、「それは取り戻せるもの」とも言っていた。

 D・アウベスの言う通り、この日のバルサは久しく失っていたハイプレスの勢いと精度を突如として取り戻した。すっかり守備意識がなくなっていたメッシまでもが全速力でボールに追いすがる姿は懐かしさすら感じられたほどで、逆になぜ今までできなかったのかが不思議なくらいだ。

 2点目と同様に、55分の3点目も始まりは敵陣でのボール奪取だった。最後尾に構えるマスチェラーノが鋭い出足で縦パスをインターセプト。そこからイニエスタ、シャビ、そしてゴール前右に膨らみマークを外したビジャへとつなぎ、2試合合計スコアを覆す逆転ゴールが生まれた。

クレお気に入りのコールが延々と繰り返された

 その後、ジョルディ・ロウラ助監督はD・アウベスを右サイドバックに戻して4−3−3にシステムを変更。さらにビジャを下げ、アレクシス・サンチェスを投入して前線に守備力とスピードを加える。今季長らく不遇の時を過ごしてきたビジャがピッチを去る際、9万人の観衆が総立ちで拍手を送る様は感動的だった。その傍ら、数年ぶりにカンプノウのピッチに立った元バルサのボージャン・クルキッチの登場が認識されるまでに数分を要したのは皮肉な話である。

 一方、攻めに出ざるを得なくなったアレッグリはロビーニョとサリー・ムンタリを送り込んだ後、ボージャンの投入とともに4−2−3−1に布陣を変更する。その結果ボールは持てるようになったものの、横パスを繰り返すばかりで相手ゴールには近づくことはほとんどできなかった。それはまるで、第1レグのバルサを見ているようだった。

 結局、試合終了間際にカウンターから、ジョルディ・アルバが決定的な4ゴール目を決めて勝負あり。ほどなく試合が終了すると、普段なら我先にと家路へ就くはずの観衆は席から動こうとせず、イムノの大合唱がスタートする。その後もゴール裏の応援団を中心に多くのファンがしばし歴史的逆転劇の余韻に浸っていた。

 スタジアムの外に出ると、通りのあちこちから車のクラクションの音が聞こえてくる。メトロの入口にできた長蛇の列では、誰かが音頭を取る度にクレお気に入りのコールが延々と繰り返されていた。

「オーレーレ!オーラーラ! バルサを愛すること以上に素晴らしいことなどない!」

<了>

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著者プロフィール

東京生まれの神奈川育ち。桐光学園高‐早稲田大学文学部卒。幼稚園のクラブでボールを蹴りはじめ、大学時代よりフットボールライターを志す。2006年よりバルセロナ在住。現在はサッカーを中心に欧州のスポーツ取材に奔走しつつ、執筆、翻訳活動を続けている。生涯現役を目標にプレーも継続。自身が立ち上げたバルセロナのフットサルチームは活動10周年を迎えた。

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