香川の不出場を疑問視する声は少なく=欧州CLでの挑戦を不完全燃焼で終える

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ベンチで聞いた終了の笛

出場機会がなかった香川。CLでの挑戦は終わったものの、リーグ戦やFAカップではタイトル獲得の可能性は残されている 【写真:アフロ】

 欧州チャンピオンズリーグにおける香川真司の挑戦は幕を閉じた。3月5日、マンチェスター・ユナイテッドはレアル・マドリーに1−2で敗戦。アウエーでの第1戦を1−1のドローで終えていただけにホームでの勝ち上がりが期待されたものの、あと1歩及ばなかった。

 香川は敗北を告げるホイッスルをベンチで聞いた。3日前に行われたプレミアリーグのノーウィッチ・シティ戦でハットトリックを達成した男はこの日、最後までピッチに立つことがかなわなかった。

 戦前から香川の出場は有力視されていた。ノーウィッチ戦での活躍を受け、アレックス・ファーガソン監督は、試合後に「才能を疑ったことはない。得点シーンを見ればわれわれが真のトッププレーヤーを手に入れたことが分かるだろう」と称賛。地元メディアもトップ下もしくは左サイドでの起用を予測する声が多かった。

 しかし、ふたを開けてみると香川の名前は先発に含まれていなかった。それどころか攻撃の中心選手であるウェイン・ルーニーまでもベンチに置いた。ファーガソン監督はこの大一番でロビン・ファン・ペルシの1トップを選択し、トップ下にはダニー・ウェルベック、両サイドMFにはナニとライアン・ギグスを起用した。

得点が必要な場面も出番はなく

 試合は48分にユナイテッドがオウンゴールで先制。ナニの折り返しをウェルベックが触り、そのボールがセルヒオ・ラモスに当たるという幸運な形だったが、先発起用した2人が得点に絡んだことでファーガソンのさい配は的中したかに見えた。だが、それからわずか8分後に落とし穴が待っていた。

 空中に浮いたボールをナニが追い、足を上げて止めようとしたところ、レアル・マドリーのアルバロ・アルベロアと接触。決して悪意のあるプレーには見えなかったが、スパイクの裏を見せた危険な行為と判断され、ナニは退場を宣告されてしまう。10人での戦いを強いられたユナイテッドは、66分にルカ・モドリッチ、69分にクリスティアーノ・ロナウドに決められ、逆転を許した。その後、ファーガソン監督は次々と攻撃のカードを切ったものの、香川の名前が呼ばれることは最後までなかった。アウエーゴールルールにより2点以上が必要となったユナイテッドは、終盤はパワープレーに切り替え得点を狙った。中央の守りを固めた相手に、パスワークや2列目からの切り込みが持ち味の香川は戦略的にはそぐわない。ルーニーは別として、アシュリー・ヤングやアントニオ・バレンシアといったサイドアタックが得意な選手が投入されたのは至極当然のことだった。

 最後はリオ・ファーディナンドやネマニャ・ビディッチまで前線に上げたユナイテッドだったが、レアル・マドリーの守備を崩せず、1−2で敗れ去った。

先発を外れたのは「戦術的な理由」

 試合後、現地メディアの報道は「ナニの退場は妥当だったのか」、「ルーニーはなぜ先発を外れたのか」という2点に集中していた。ナニの退場については意見が分かれている。英テレビ局ITVのインタビューに答えた元ユナイテッドのロイ・キーンは、「レフェリーは正しい判断をしたと思う。皆はあの判定に腹を立てているし、不運だと思っているが、あれは危険なプレーだった」と語り、主審の判定に理解を示した。その一方でBBCラジオ5の質問に答えたエバートンのデイビット・モイーズ監督は、「ファーガソンが怒るのは当然だと思う。あの判定が試合の流れを変えた。監督側してみれば今夜は厳しい時間を過ごしたはずだ」と話し、ジャッジに疑問を投げかけた。

 ルーニーの先発落ちについては不明な部分も多いが、『テレグラフ』紙は「ルーニーはファーガソン監督の中ですでに絶対的な存在ではなくなっている。彼がチームの柱と考えているのはファン・ペルシだ」と報じ、議論を巻き起こしている。

 こうした報道が多勢を占める中で、香川の不出場について触れるメディアはほとんどなかった。『スカイ・スポーツ』によれば、ファーガソン監督は試合後の会見を欠席。代わりに出席したアシスタントコーチのマイク・フェラン氏は「ルーニーと香川がベンチスタートとなったのは戦術的な理由によるものだ。選手は皆、試合に出る準備ができているし、フィットもしている。ただ、監督は決断を下さなければならない。2人が控えになったのはその決断によるものだ」と説明したと伝えている。香川について触れたのはこの部分だけだった。

 リーグ戦でハットトリックをしたとはいえ、出場機会がなかったことを疑問視する声が挙がらなかったのは、まだ香川がチームの窮地を救う存在として見なされていない証左だろう。ただ、プレミアリーグもFAカップもタイトルの可能性は残っている。シーズンが佳境を迎える今後、タイトル獲得に大きな貢献を果たせば、自ずと存在価値は高まっていくはずだ。

<了>
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