男子マラソン、内定ゼロでも悲嘆無用の理由=世界陸上国内選考で見せた“攻めの走り”

中尾義理

2時間8分台が5人 課題はあれど大きな収穫

11年東京で2時間8分台を出した川内優輝は、今年2月の別府大分でも2時間8分15秒をマーク。世界選手権有力候補に名乗りを上げた 【写真は共同】

 昨年12月の福岡国際から、今年2月の別府大分と東京、今回のびわ湖と続いた国内選考4レースを振り返ると、日本男子マラソンの収穫と課題が鮮明に見えてくる。

 収穫は、世界選手権男子マラソン代表枠の最大「5」の選考過程で、2時間8分台が5人そろったことだ。福岡国際では、11年世界選手権7位の堀端宏行(旭化成)がロンドン五輪補欠に甘んじた悔しさをレースにぶつけて、2時間8分24秒。別府大分では、公務員ランナーとして旧態のマラソンの法則を覆し続けている川内優輝(埼玉県庁)が2時間8分15秒、ロンドン五輪6位入賞の中本健太郎(安川電機)が2時間8分35秒をマークした。東京では30キロ〜35キロを14分39秒でカバーした前田和浩(九電工)が2時間8分00秒。展開と戦略次第で2時間4分台のケニア勢に先着できることを示した。びわ湖では2時間8分51秒の藤原が、びわ湖で始まったマラソンのキャリアを再び回転させ始めた。日本代表に手を伸ばす有力ランナーたちの「世界の舞台で走るんだ」という気概と現実がかみ合った。

 一方で、派遣設定タイムを1人もクリアできなかったこと、8分台で走った5人は全員世界選手権代表経験者であり、若手の台頭が乏しかったことが課題に挙げられる。
 前回11年世界選手権の国内選考レースでは「2時間9分29秒以内」が基準だった。今回の派遣設定タイムは一気に1分30秒引き上げられた。昨年の東京で、藤原新(ミキハウス)が2時間7分48秒で走っているが、日本歴代で2時間7分59秒以内はわずか12人。それほど「2時間7分59秒」は容易ではない。
 びわ湖の藤原は「2時間7分59秒を目指していた中での2時間8分51秒でした」と話した。具体的な目標記録として2時間7分台を掲げて各選手・各陣営が練習し、準備を整え、攻めのレースを見せたことが、5人の2時間8分台の背景にあることは間違いない。
 11年東京で川内が2時間8分37秒をマークしたとき、「3年ぶりの2時間8分台」がニュースになった。そのことを思うと、2時間7分台にあと1秒と迫った前田をはじめ、堀端、川内、中本が自己新、藤原は10年ぶりの2時間8分台。2年前と比べれば、悲嘆無用の内容だ。

選考過程で見えた、男子マラソンの意識の変化

 2時間7分台をターゲットにしたことで、男子マラソンの意識がひと皮向けた。もっとも、アフリカ勢中心の世界水準は2時間7分台どころではない。「世界で勝負したい」と口にするならば、視線を上げ続けなければならない。

 選考レースはまだ4月のロンドンとボストンが残っている。左太ももを痛めて東京出場を取りやめた藤原新の動向も気になるし、福岡で2時間10分8秒をマークした黒木文太(安川電機)は海外レース挑戦を予定している。国内4レースの結果で2時間8分台の5人にすんなりと決まるか、それとも春の海外でひと波乱あるか。

 11年世界陸上と12年五輪で入賞者を出した日本男子マラソンが目指す次段階は、メダル争いに加わる選手の登場ということになるだろう。その過程で相次いだ2時間8分台は、期待に応えようとする潮流が生まれていることを物語っている。

<了>

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著者プロフィール

愛媛県出身。地方紙記者を4年務めた後、フリー記者。中学から大学まで競技した陸上競技をはじめスポーツ、アウトドア、旅紀行をテーマに取材・執筆する。

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