チョン・テセ「憲剛さんとプレーしたい」=苦しんだドイツでの日々と移籍の経緯

キム・ミョンウ

今は好調を維持できている

韓国の空港には取材陣が多く詰めかけた。チョン・テセも「びっくりした」と振り返る 【写真:ロイター/アフロ】

――仁川空港に降り立ったとき、取材陣の多さにびっくりしたみたいだけど、そのときの気持ちは?

 いや、本当にびっくりしましたよ。ドイツにいたときはケルンでもあまり試合に出ていなかったですし、メディアとの接点があまりなかったんです。日本で注目されるといったら、日本代表と試合したときくらいですよね。なので、メディア慣れしていなくて(笑)。韓国の取材陣に囲まれたのは、韓国代表と試合したとき以来だったので、かなり緊張しました。

――でも、注目されることはうれしかったんじゃない?

 いやー、楽しかったですね(笑)。ドイツ時代は顔なじみの現地記者が4、5人いる程度でした。それがいきなりガッツリ押し寄せてきたので、しっかり受け答えしようと思いました。サッカーの報道だけだったら、そこまで注目されていないと思うんですけれども、去年の夏に韓国の人気バラエティ番組の『ヒーリングキャンプ』と『ランニングマン』に出演したんです。それにより、サッカーの枠を超えて、多くの人に知ってもらえたのかなって思います。その影響力はすごく感じますね。

――確かにテレビの影響力は大きいよね。北朝鮮代表選手の肩書きを持って、韓国でプレーすることに不安はなかった?

 周囲の人は心配していましたね。もちろん家族にも相談しましたけれど、誰も何も言ってこなかったです。オモニ(母)は「思うようにいけばいいね」と言ってくれましたし、自分はそこまで心配はしていませんでした。アン・ヨンハ先輩が韓国でプレーして成功しているので、そうした安心もありました。

――チームに合流してからすでになじんでいるようだけれど、同じポジションのFWとはレギュラー争いも過酷なのでは? 長身FWのラドンチッチ、ステボの外国人選手がいるね

 確かに最初は2人を見たときに「(ポジション争いが)厳しいな」って思ったんですけれど、鹿児島キャンプの練習試合で結果を残せたので、開幕スタメンには自信があります。チームはいろいろな選手とフォーメーションをテストしました。最初の2試合はラドンチッチとステボの前線の下でプレーしましたが、あまり機能しませんでしたね。ケルンにいたときもトップ下でプレーすることが多くて、いろいろと迷っていました。FWとしての積極性とか、シュートへの感覚を忘れがちで……。でも水原に来てからは、そうした迷いも少しずつなくなりました。キャンプの3試合目に1トップで出場する機会があって、それから自分の思うようなプレーができるようになりましたね。ハットトリックする試合もありましたし、今は好調を維持できているので開幕が楽しみです。

ドイツと日本と韓国の違いはボディーバランス

――実際に練習や合宿での試合を通じてJクラブと韓国クラブの違いは感じた?

 練習をやっても韓国の下位チームと試合をやってみてもそうですが、もちろん日本との違いはあります。よく聞く話だと思いますが、日本のチームはサッカーがきれいで、韓国のサッカーは激しい。これは実際にやってみて、やっぱりそうなんだなと感じました。競り合いのときに、体を入れるのがとても大変ですね。日本のチームはきれいなサッカーをするので、ある程度前を向かせてくれるし、突破もしやすい印象があります。ただ、日本はパスの精度が高いですよね。韓国の選手は球際が激しいのが一番の特徴ですかね。だからといって、終始、ガツガツしているのかといえば、そうでもなくて、うまくつなぐこともできるし、要所でうまいなと感じる部分はありました。

――ほかにも何か感じた違いはある?

 ドイツと日本と韓国の違いでいうと、ボディーバランスです。

――具体的にいうと?

 ドイツの選手は重心がブレないんです。例えばボランチ。相手に体を当ててボールをキープしたり、局面を打開するために切り替えしたり、ターンすることも多いですよね。ドイツの選手はそれがうまいんです。きれいにターンができる選手が多いのはボディーバランスが強い証拠です。そういう意味では、自分も含め、韓国や日本の選手の中には、重心が崩れてしまって、パスミスするケースが結構多いんじゃないかなって思います。例えば、ボランチが前線にボールを入れたら、ボールを受けてくさびになった選手に相手が寄ってきます。その間にサイドバックが空いたスペースに走り込んできて、そのスペースにくさびになった選手がパスを出します。そのパスがサイドバックの5メートル前にいけば、サイドバックは勢いを持って攻撃に参加できますが、サイドバックの5センチ後ろだったら、そのサイドバックはそこでプレーが止まってしまいます。ドイツにいたことで、そうした局面の打開やパスの質はボディーバランスがいいか、悪いかで決まるんだなと感じましたね。

――今季の水原はどのようなサッカーを目指している?

 昨年はステボとラドンチッチの長身FWがいたので、前線に蹴り込んでからの展開が多かったみたいですけれど、練習に参加した印象では今年からパスサッカーを目指している印象はあります。特にボランチのキム・ドゥヒョンとFC東京でプレーしたこともあるオ・ジャンウンはとてもいい選手ですよ。

――確かにチームには代表クラスの選手が数人いるよね。元韓国代表のソ・ジョンウォン監督はどんな人?

 入団交渉に時間がかかるなか、移籍が決まったのはソ・ジョンウォン監督が自分のことを欲しいって言ってくれたからなんですよ。ソ・ジョンウォンと言えば、韓国では知らない人はほとんどいない有名選手ですが、恥ずかしい話、監督の現役時代やどんな選手なのかはほとんど知らなかったんです。それで、ファン感謝デーのときに、監督の現役時代の映像が流れているのを見て「あ、この人か!」ってようやく分かったんです。そこで思い出したのが、学生のころに行ったゲームセンターでセガのサッカーゲームをよくしていて、韓国代表に能力の高い特徴的な選手が1人いたんです。それがソ・ジョンウォン監督だったのもその時に分かりました(笑)。

――それはおもしろい話だね。水原の練習環境はとてもいいと聞いているけれど、何か感じることはある?

 水原のクラブハウスは本当に立派ですね。練習が終わったあと、選手みんなで食堂で食事するんですけれど、バランスがとれていてとてもおいしいですよ。チゲとかめっちゃくちゃおいしい。練習グラウンドも立派で、環境についてはとても満足しています。

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著者プロフィール

1977年、大阪府生まれの在日コリアン3世。フリーライター。朝鮮大学校外国語学部卒。朝鮮新報社記者時代に幅広い分野のスポーツ取材をこなす。その後、ライターとして活動を開始し、主に韓国、北朝鮮のサッカー、コリアン選手らを取材。南アフリカW杯前には平壌に入り、代表チームや関係者らを取材した。2011年からゴルフ取材も開始。イ・ボミら韓国人選手と親交があり、韓国ゴルフ事情に精通している。

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