武田幸三のキック人生、長渕剛が命を吹き込む=独占インタビュー

茂田浩司

武田幸三が語る命を懸けたキック人生、長渕剛さんとの親交 【t.SAKUMA】

 2月27日、DVD「武田幸三・キック馬鹿」(よしもとアール・アンド・シー)が発売される。

 これは09年10月、アルバート・クラウス戦を最後にK−1を引退した「ラストサムライ」武田幸三のキックに賭けた人生の軌跡を、過去の写真や当時の試合と練習映像、取材による密着VTRや本人および関係者のコメントで辿ったもの。
 全体の監修は長渕剛氏。武田と親交の深い長渕氏はその瞬間、瞬間の武田の心の動きを鮮やかに描き出し、映画を見ているような感動を呼び起こす。

 現在、俳優としてドラマや舞台で活躍しながら、治政館ジムで後進の指導に当たる武田氏にDVDの制作秘話や自らのキック人生について聞いた。(インタビュアー・文/茂田浩司)

長渕さんの映像作品を見て「命が吹き込まれているな」と

1度は完成していたDVDだが、長渕さん自らが監修を買って出たという 【t.SAKUMA】

――DVD「キック馬鹿」を拝見しました。試合映像をただまとめたものではなくて、写真だけで構成された場面あり、武田さんの独白ありと「長渕剛監督の映画」ですね。

 はい。(長渕)剛さんは、やるからには全精力を注いで、全神経を集中してやってくださる方なんです。繊細であり、人として大きくあり。

――そもそも、試合映像と武田さんのインタビューで構成された引退記念DVDは一度完成していたんですね。

 はい。最初に作らせていただいたDVDの中で剛さんの曲を使わせていただきたくて、剛さんにDVDを見ていただいたんです。そうしたら『これもいいんだけど、もう少し良くなるんじゃないか。俺にやらせてくれないか』と言ってくださったんです。

――長渕さんが「やらせてくれないか」というのは凄いですね。

 そうなんです。そして『このDVDはお前の子供と、これから立ち上がらなければいけない人に見せるためのものだよ。お前は何度倒れても立ち上がってきた。今、この日本には立ち上がろうとしている人たちがいっぱいいる。そういう人に見て貰うんだ』と。

――完成した作品を見ていかがでした?

 正直、剛さんと会うまでは映像の力、音楽の力をそこまで実感したことはなかったんです。でも剛さんが僕の引退試合(クラウス戦)の入場のために『STAY DREAM』を改めてレコーディングして下さって、そのレコーディングに立ち会わせていただいた時に涙が止まりませんでした。その時に『歌に命を入れる』という剛さんの言葉を体感して、今、また剛さんに作っていただいた映像作品を見て『命が吹き込まれているな』と感じました。僕ももちろん泣きましたし、ウチのカミさんも泣いてました。『よかったよ』と。

――武田さんの、その時その時の心情が丁寧に描き出されていて、こちらも武田さんの目線に同化するので、ラストマッチの壮絶な戦いに長渕さんの「STAY DREAM」が重なると感情を揺さぶられましたね。

 僕の先生(治政館・長江国政館長)に対する思いや親父への思い、それからお客さんに対する思いを僕よりも僕の気持ちを剛さんは分かっているんだ、と不思議でしたし、感動しました。その時に僕が考えていたことを改めて思い出させてくれて、ああ、俺はこの感情だった、と。

「命を懸けていないと同じステージに立てない」

壮絶に散った09年10月の武田引退試合、長渕さん(左)もそのファイトを称えた 【t.SAKUMA】

――長渕さんとは、クラウス戦の後からさらに親交を深めたそうですね。

 剛さんは命を懸けて音楽をやっていらっしゃって、僕もキックで命を懸けてやってきて、引退した後、剛さんに『芸能界でも同じ気持ちで、命を削る覚悟でやっていきます』とお話させていただいた時に、剛さんは『1回そういう経験をしているんだから、そういう覚悟でやれば大丈夫だよ』って言ってくださったんです。
 剛さんは何でも命懸けでやられる方なんです。全神経を集中して、僕もリングでは命を削る覚悟でやっていたので、見れば分かりますよね。歌い出しの『死んじまいた〜い』という一言を聴いただけで勝手に涙が出てくるんです。動物ですから、それはわかりますよね。本気なんだ、命を削ってやっているんだ、と。
 ライブ前にお会いすると『これからやってやる!』っていう“気”で充満してて、研ぎ澄まされているんですけど、ライブが終わった後は抜け殻になっています。その剛さんの姿を見ると、自分がキックの試合をした後のようだな、と思いました。

――DVDに武田さんが長渕さんを訪ねるシーンがありますけど、レコーディングスタジオの緊張感が尋常ではなかったですね。

 中にいらっしゃるスタッフの方も、もちろん僕も直立不動でした。勝手にそうなっちゃうんです。キックでも立嶋(篤史)さんや魔裟斗君がそうですよね。そこにいるだけで空気が変わる。その感覚です。
 僕、現役の頃は剛さんの前に立つことが出来たんですけど、引退してしばらくして緊張が緩んでいた時は、剛さんの前に立てなかったです。恥ずかしくて。剛さんがオフモードの時はいいんですけど、でも基本的に剛さんはいつもスイッチオンで何かに飢えているオオカミのようなので。今でも剛さんの前に行く時は緊張します。自分を見透かされてしまいますから。

――昨年12月の三崎和雄さんの引退セレモニーで長渕さんの凄みを垣間見ました。ただ「STAY DREAM」は武田さんのラストマッチの入場曲でもあり、少し複雑な気持ちはありましたか?

 いえいえ、それはないですよ(笑)。僕はあの歌をラストマッチの入場曲に使わせていただいたたことが光栄ですし、三崎君は本当に命を懸けてやってきましたからね。ジョルジ・サンチアゴ戦を解説席で、目の前で見て、あのまま続けていたら間違いなく……。本物の死闘ですよね。そうやって命を懸けてやってきた人間が選ぶ曲が「STAY DREAM」だと思うんですよ。
 三崎君も本気でやってきたから、剛さんも本気で応えてくださった。そうでなければ同じ土俵に立てないと思いますから。何かの線を超えた人間でないと一緒にいられない。要するに、命を懸けていないと同じステージに立てない、という感じですからね。

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著者プロフィール

94年から週刊の情報誌でスポーツページを編集。野球、サッカー、NBA、テニス、F-1など様々な競技や選手を取材。96年からフリーに。99~02年「ゴング格闘技」編集ライター。現在は格闘技、お笑い、教育、健康、舞台・テレビ、政治・時事などを幅広く取材・執筆中。

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