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セッター転向で才能の片鱗を見せる狩野
中田監督の壮大な構想は実を結ぶのか

輝ききれなかったスパイカー時代

セッターとしてコートで存在感を放ち始めた狩野。全日本待望の大型セッター誕生への期待は高まる
セッターとしてコートで存在感を放ち始めた狩野。全日本待望の大型セッター誕生への期待は高まる【坂本清】

 出番は、思いがけず早く訪れた。


 1月19日、兵庫・姫路市立中央体育館で行われたV・プレミアリーグの一戦は、久光製薬スプリングスと東レアローズという昨年末の皇后杯決勝と同じ顔合わせとなった。19−10と久光製薬が9点をリードした場面で、ベンチに座る中田久美監督は、アップゾーンの狩野舞子を呼んだ。


 セッター対角の長岡望悠に代わって狩野を入れ、セッターの古藤千鶴に代えて石田瑞穂を投入。前衛に回って来たセッターに代わって石田を入れることで攻撃の枚数を増やし、後衛に入るセッターが新たな展開を加える。それが“2枚替え”の狙いだ。


 昨年8月のロンドン五輪でも、セッターの竹下佳江が前衛に回る終盤に、竹下と狩野が代わり、対角の選手とセッターの中道瞳(東レ)が代わる場面も多く見られた。

 あの歓喜から5カ月、スパイカーだった狩野が今度はセッターとして、初めて2枚替えでコートに立った。


 中学3年時に日本代表候補選手に初選出されるなど、大型スパイカーとして早くから注目を集め、期待を寄せられてきた。しかし、度重なる腰痛に加え、2008年には右アキレス腱を断裂し、さらに2年後の10年には反対の左アキレス腱を断裂。多大な期待を寄せられながらも、国際舞台でスパイカーとして活躍したことはなかった。


 ようやくチャンスをつかみ、代表選手として3大大会に初出場したのが11年のワールドカップ。しかし、ライトポジションに入るのは山口舞(岡山シーガルズ)か、新鍋理沙(久光製薬)。出場したとしてもワンポイントブロッカーか、2枚替えで、ワールドカップ以降のロンドン五輪最終予選や、ロンドン五輪本番でも狩野の出番は限られていた。


 転機が訪れたのはロンドン五輪を終えてから。昨年まで在籍したトルコリーグのベシクタシュを退団し、進路を決めかねていた狩野の元に、国内の複数チームがオファーを出した。その中のひとつが10年まで在籍した古巣の久光製薬であり、今季から就任した中田監督は、狩野を“セッター”として求めた。

中田監督が確信したセッターへの転向

ロンドン五輪などの主要大会で、狩野(左)の“アタッカー”としての出場時間は限られたものだった
ロンドン五輪などの主要大会で、狩野(左)の“アタッカー”としての出場時間は限られたものだった【写真:AP/アフロ】

 大型セッターを待望する声は、今に始まったことではない。とはいえ、将来を嘱望された“大型スパイカー”のセッター転向。狩野だけでない、周囲が驚くのも当然だった。しかし、中田監督はセッター狩野構想を3年前から考えており、その転向が間違いではないという確信を抱いていたという。


「解説者として全日本女子の練習を見たときに、狩野のパスは質、軌道共に他の選手とは違っていました。ハンドリングもいいし、ボールの下に入るのも早いので、高い位置でボールをさばくことができる。これはひょっとしたら、ひょっとすると思いました。(全日本女子が)メダルを獲った今だからこそ、これからにつなげるためには、大型セッターは絶対に必要です。その可能性を秘めた選手を育てないのはもったいない。舞子のセッター転向は、大きな挑戦だけど、それ以上に大きな可能性があると確信しています」


 五輪後は心身の休養に時間を充てていた狩野だったが、「可能性に懸けたい」と9月に古巣・久光製薬への2年ぶりの復帰と、セッター転向を決意した。その後は基本のパスやトス、スパイカー陣とのコンビ練習に加え、誰よりも早く練習場に現れ、休日も返上して、練習に明け暮れた。ボールに触る時間をとにかく増やしていった。


 そして、迎えた11月17日のV・プレミアリーグ開幕戦で狩野が魅せた。中田監督率いる久光製薬の初陣となったトヨタ車体クインシーズ戦で、古藤に代わってワンポイントで投入された狩野はレシーブで切り返したボールをレフトへトス。「とにかく丁寧に上げるよう心がけた」という記念すべき公式戦での初めてのトスは、得点にはつながらなかったが、「セッターとして1人前になるには1万時間かかる」という中田監督からも「初めてにしては上出来」と及第点が与えられた。

田中夕子

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など、女子アスリートの著書や、前橋育英高校野球部・荒井直樹監督の『当たり前の積み重ねが本物になる』では構成を担当

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