セッター転向で才能の片鱗を見せる狩野舞子=中田監督の壮大な構想は実を結ぶのか

田中夕子

課題は山積みも、高まる期待

中田監督は、セッターでプレーする狩野の成長を日々実感しているようだ 【坂本清】

 中田監督は「経験を積ませるためにもどんどん試合に出したい。まずは自信をつけさせたいので、いいところで使ってあげたい」と言うが、上位陣との対戦は接戦になることが多く、狩野に出場機会が巡ってくることは少なかった。
 
 それだけに年明け最初の東レ戦は、けがでステファニー・エンライトを欠くとはいえ、昨年のV・プレミアリーグ優勝チームであり、今年度の初タイトルを懸けて皇后杯の決勝で戦ったばかりの相手だ。指揮官から「行けるときが来たら使うよ」と伝えられていたとはいえ、これほど早く自分の出番が巡ってくるとは思いもしなかった。

「舞子、行くよ」

 初めての2枚替えだったが、点差が開いていたこともあり、心に余裕があった。とにかく丁寧に、打ちやすく。ただそれだけを心がけていたが、一方で別の思惑もあった。

「最初は怖くてレフトにしか(トスを)上げられませんでした。それが悔しかったし、せっかくの機会なのだから、いろいろ試してみたい。『やっちゃえ』と割り切って、スパイカーを信じて上げました」

 レフトへのトスだけでなく、センターの岩坂名奈の高さを生かすように、ボールの打点に合わせて置くようなクイックのトスを上げ、次はもう少し高さを出してセンターに切り込んでくる石田の時間差攻撃を使った。立て続けにその攻撃が決まると、セッターの狩野は満面の笑みを浮かべ、スパイカーとハイタッチで喜びを分かち合った。

 決して特別なことをしたわけではない。現状だけで将来の全日本女子のセッター候補として狩野が適任か、その判断を下すのはあまりにも早計だ。狩野が「動きには慣れてきたけれど、この場面でココを使う、という読みがまだ甘い」と言うように、セッターとして身につけなければならない要素は、まだまだ山ほどある。

 とはいえサーブレシーブがやや高めに返っても、難なくトスにつなげる姿や、柔らかく緩やかなトスの軌道を見ると、中田監督の言葉を借りるならば、「ひょっとすると、ひょっとする」かもしれないと思わずにはいられない。

「まだ半年足らずで、あれほどできるとは思わなかった。正直、びっくりしました」と中田監督の講評も、その期待を後押しする。

 次はどんなトスを上げるのか。どんな試合をつくるのか。無限に広がる可能性とともに、楽しみも増すばかりだ。

<了>

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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