酒井友之が現役生活にこだわる理由=求められる東南アジアへの適応力
日本と異なるピッチ内の環境
加えて、レベルも日本に比べるとどうしても低くなる。酒井が今、プレーするリーグはJFLと同等くらい。インドネシア人選手たちのスキルは低くないが、ボールを持ちたがる傾向が強く、ドリブルに固執するあまり、パス回しのミスが頻繁に起きる。守備の基本もきちんと教わっていない様子で、飛び込んできて簡単に裏を取られるケースが少なくない。酒井にしてみれば、相手DFをうまくかわせればフリーになれるチャンスも多いというが、こうした特徴を的確に把握し、周りに合わせながら戦えないと、インドネシアで活躍するのは不可能だろう。
「辞めるタイミングが見つからない」
「単純にサッカーがうまいだけでは難しいです。東南アジアは常夏の国がばかりだから、暑さに強くないとフル稼働はできない。食事もつねに日本食を口にできるわけじゃないですし、スパイシーなものが多いから、慣れないといけない。会話にしても英語さえ通じないところが多いので、いかにコミュニケーションを取るかを考えて工夫する必要があります。そういうタフさは今の日本人に最も足りない部分。タフなメンタリティーを身につけられれば人間的成長につながるし、異国でも成功できると思いますね」
加藤GKコーチが指摘することを、酒井は肌で感じている。この3年間、カタコトのインドネシア語を覚え、給料の遅配があれば自らメールで取り立てるくらいのことは普通にやってきた。今回、一時帰国した日本からインドネシアに戻る際も、LCC(格安航空会社)のエアアジアを使ったというから、日の丸を背負っていたころの彼には考えられない行動パターンだろう。「何が起きても動じなくなったし、自分でやれるようになった。ホントにたくましくしくなったと思いますね」と本人も苦笑するほどだ。
そこまでしてサバイバルを続けるのも、プレーヤーとして完全燃焼し尽くしたいという思いが強いから。「辞めるタイミングがまだまだ見つからない」と彼は素直に言う。
「伸二(小野=ウエスタン・シドニー)とか同年代の選手はみんな現役でやってるし、自分が先にやめるのは単純に悔しいですからね。プレーできるチームが完全になくなったら引退なんでしょうけど、先のことは具体的には考えてません。とにかく今はデルトラスをスーパーリーグに上げること。そこに集中して頑張っていきたいですね」
デルトラスが所属するプレミアディビジョンは、(1)ジャワ島の西半分、(2)ジャワ島東半分+カリマンタン島の1チーム、(3)スマトラ島、(4)(5)カリマンタン島+スラウェシ島の2グループの合計5グループで構成され、全部で42チームが参加する。地区ごとのリーグ戦の結果によって、(1)(2)の上位3チームと(3)(4)(5)の上位2チームの計12チームが決勝トーナメントに進出。上から3チームが自動昇格し、4位が入替戦に回る仕組みになっているという。10−11シーズン途中に分裂したスーパーリーグとプレミアリーグの再統合話も進んでいるというだけに、来季以降のリーグ形態は全く不透明だが、酒井は目先の1戦1戦に全力でぶつかっていくつもりだ。
今年34歳になるベテランMFの飽くなき挑戦にさらなる期待を寄せたい。
<了>