酒井友之が現役生活にこだわる理由=求められる東南アジアへの適応力

元川悦子

日本と異なるピッチ内の環境

「正月明けにチームに合流してみると、外国人選手が入れ替わりで来ていて、毎日のようにテストを兼ねた紅白戦が行われました。1週間前にやっとアフリカ系のDFが決まったけど、FWは開幕直前まで3人が試されている状況だった。第1節直前にアフリカ出身の黒人FWと契約して3人の外国人枠(スーパーリーグは5人)が埋まりましたけど、たいして練習する時間がなかったんで連携も何もあったもんじゃない。日本みたいに開幕1カ月半前からフィジカルを鍛えて、連携や戦術面を強化していくという考え方はインドネシアにはほぼないです。レフェリングも日本だったら一発でレッドカードのようなプレーでも、こっちでは普通に流してやってます。激しく汚いプレーが多いんで、自分で気をつけながらやらないと大ケガをする可能性もある。いろんなことを考えながら戦わないといけないですね」と彼は言う。

 加えて、レベルも日本に比べるとどうしても低くなる。酒井が今、プレーするリーグはJFLと同等くらい。インドネシア人選手たちのスキルは低くないが、ボールを持ちたがる傾向が強く、ドリブルに固執するあまり、パス回しのミスが頻繁に起きる。守備の基本もきちんと教わっていない様子で、飛び込んできて簡単に裏を取られるケースが少なくない。酒井にしてみれば、相手DFをうまくかわせればフリーになれるチャンスも多いというが、こうした特徴を的確に把握し、周りに合わせながら戦えないと、インドネシアで活躍するのは不可能だろう。

「辞めるタイミングが見つからない」

 チョンブリーの加藤GKコーチも「東南アジアでやっていこうと思うなら、適応力が必要不可欠」と言い切る。

「単純にサッカーがうまいだけでは難しいです。東南アジアは常夏の国がばかりだから、暑さに強くないとフル稼働はできない。食事もつねに日本食を口にできるわけじゃないですし、スパイシーなものが多いから、慣れないといけない。会話にしても英語さえ通じないところが多いので、いかにコミュニケーションを取るかを考えて工夫する必要があります。そういうタフさは今の日本人に最も足りない部分。タフなメンタリティーを身につけられれば人間的成長につながるし、異国でも成功できると思いますね」

 加藤GKコーチが指摘することを、酒井は肌で感じている。この3年間、カタコトのインドネシア語を覚え、給料の遅配があれば自らメールで取り立てるくらいのことは普通にやってきた。今回、一時帰国した日本からインドネシアに戻る際も、LCC(格安航空会社)のエアアジアを使ったというから、日の丸を背負っていたころの彼には考えられない行動パターンだろう。「何が起きても動じなくなったし、自分でやれるようになった。ホントにたくましくしくなったと思いますね」と本人も苦笑するほどだ。

 そこまでしてサバイバルを続けるのも、プレーヤーとして完全燃焼し尽くしたいという思いが強いから。「辞めるタイミングがまだまだ見つからない」と彼は素直に言う。

「伸二(小野=ウエスタン・シドニー)とか同年代の選手はみんな現役でやってるし、自分が先にやめるのは単純に悔しいですからね。プレーできるチームが完全になくなったら引退なんでしょうけど、先のことは具体的には考えてません。とにかく今はデルトラスをスーパーリーグに上げること。そこに集中して頑張っていきたいですね」

 デルトラスが所属するプレミアディビジョンは、(1)ジャワ島の西半分、(2)ジャワ島東半分+カリマンタン島の1チーム、(3)スマトラ島、(4)(5)カリマンタン島+スラウェシ島の2グループの合計5グループで構成され、全部で42チームが参加する。地区ごとのリーグ戦の結果によって、(1)(2)の上位3チームと(3)(4)(5)の上位2チームの計12チームが決勝トーナメントに進出。上から3チームが自動昇格し、4位が入替戦に回る仕組みになっているという。10−11シーズン途中に分裂したスーパーリーグとプレミアリーグの再統合話も進んでいるというだけに、来季以降のリーグ形態は全く不透明だが、酒井は目先の1戦1戦に全力でぶつかっていくつもりだ。

 今年34歳になるベテランMFの飽くなき挑戦にさらなる期待を寄せたい。

<了>

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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