酒井友之が現役生活にこだわる理由=求められる東南アジアへの適応力

元川悦子

経済成長に比例する外国人選手の数

酒井とともにインドネシアでプレーした元大分の柴小屋(右)。給料未払いもあり、昨季限りでの引退を決意した 【元川悦子】

 彼を筆頭に、東南アジアに進出する日本人選手は増える一方だ。トルシエジャパン時代にボランチとして活躍した戸田和幸も年明け早々にシンガポールのアームド・フォーシズへ移籍。元FC東京の小澤竜己(FBグルベネ2005=ラトビア)も昨夏までの半年間、タイ・プレミアリーグのパタヤ・ユナイテッドでプレーするなど、日の丸経験者も何人かいる。タイだけに限っても日本人は目下、30人を超えており、昨季プレミアリーグでは猿田浩得(バンコクグラス)、櫛田一斗(チョンブリー)の2人がベストイレブンに選ばれている。

 タイの名門クラブ・チョンブリーで働く加藤好男GKコーチは、東南アジアへの日本人を含めた外国人選手流入増の背景を、次のように説明する。

「東南アジアの経済成長に伴って各国リーグのサラリーが上がったのが、外国人が増えている大きな要因でしょう。タイの場合は外国人枠が広いこともあり、われわれのクラブにもバッグ片手にテストを受けにくるアフリカや中南米の選手が後を絶ちません。そのハングリー精神たるやすさまじい。し烈な競争の結果、選手のレベルもかなり上がりました。もはや日本人が簡単にタイでプレーできる時代ではなくなったと思いますね。

 一方、シンガポールやベトナム、フィリピンなどでは帰化政策も進んでいます。昨年末のAFFスズキカップ(東南アジアサッカー選手権)では、こうした国の代表チームにアフリカ系や欧州系の選手が何人もいました。自国人でチームを構成したタイが決勝でシンガポールに負けたのが1つの象徴でした。この結果を受けてタイ協会も今後の方向性を検討していますが、外国人の流入の流れは進むでしょうね」

東南アジアサッカーのリスク

 ただし、インドネシアの場合は10−11シーズン途中にリーグ分裂騒動が起き、数多くのクラブが経営難に陥った影響もあり、日本人選手がやや減少傾向にあるようだ。酒井とともにペリタ・ジャヤ、ペルセナ・ワメナでプレーしたDF柴小屋雄一(元大分トリニータ)も、ワメナから巨額の給料未払い被害を受け、やむなく昨季限りでの現役引退を決意した。

「酒井さんと一緒に11年3月にワメナへ行ったころはきちんと給料が支払われていました。契約延長を言われた時も『もう1年頑張ろう』とチームに残ったんです。でも、リーグ分裂によってスーパーリーグの上にプレミアリーグができて、インドネシア協会からの分配金がスーパーリーグの方に下りなくなった。それで深刻な経営難に陥り、未払いクラブが続出しました。ワメナも2シーズン目の前半は払ってくれたけど、徐々に滞っていきました。クレームをつけてものらりくらりとかわされて、かなりの金額をもらえていません。実はワメナ1年目の監督がスーパーリーグのペルセラン・ラモンガンというチームに行ったんで『今季も一緒にやらないか』と誘ってくれたんですが、リスクが高すぎると判断した。引退は残念ですけど、仕方ないと思っています」と彼は煮え切らない気持ちを今も抱えている。

 東南アジアで成功したいなら、こうしたリスクを覚悟して飛び込む必要がある。もちろん給料未払いは最悪の事例だが、今季のインドネシア・プレミアディビジョンのように、リーグ開幕がなかなか決まらず1月末までずれ込んだり、日程がハッキリしなかったり、チームの戦力がそろわないことは日常茶飯事といっていい。デルトラスも酒井以外の外国人選手獲得がギリギリになったという。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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