永井謙佑のベルギーでの可能性と勝算=韋駄天FWは再び旋風を巻き起こせるか

今井雄一朗

永井にとってあってないような言葉の壁

移籍報告記者会見の際も天然さを発揮した永井。物怖じしない姿勢は海外でもプラスに働きそうだ 【写真は共同】

 2013年1月、J1の名古屋グランパスはFW永井謙佑のスタンダール・リエージュ(ベルギー)への移籍を発表した。プレースタイルと同様に、永井は電光石火の速さで念願の海外挑戦を実現させた。行先のスタンダールはベルギーの名門クラブで、日本代表GK川島永嗣が所属し、永井と同じタイミングで横浜F・マリノスから小野裕二も獲得している。永井はベルギー、そしてスタンダールで活躍することができるのか。その可能性について、いくつかの観点から考察してみたい。

 まずは言葉の問題だ。コミュニケーション能力は海外移籍において基本であり、最も重要なことでもある。そして永井は外国語を得意としているわけではない。移籍元の名古屋が開いた異例の移籍報告記者会見の際にも、「まずは英語を勉強します。フランス語は自分で勉強してもわからないと思う」と話していた。語学堪能な川島がチームメートにおり、最初は通訳もつくとはいえ、少し心もとない気もする。しかし永井のキャラクターをもってすれば、その壁などあってないようなものだろう。メディカルチェックと施設見学でスタンダールを訪れた際にこんなことがあったという。

「メディカルチェックに行った時は、監督とはちょっとすれ違った際に話しました。通訳がいなくて1対1でしたし、『オレが監督だ』みたいなことを言ってきました。言っていることはわかったのですが、自分がうまくしゃべれなかったので、『OK!』と言っておきました(笑)。監督との会話はそれで終わりです」

 ひょうひょうとしていて、無邪気で、天然。緊張感とは無縁で、そういう意味では天才肌であり、超然としたところもある。言葉の問題についての結論は、「チームメートたちの雰囲気によりますけど、あっちに行けば僕らが外国人ですから。だからノリで何とかやっていこうかなと思います」であった。食事に関しても「自分で作ります。チャーハンとかできます。カレーもルーさえあれば」とドヤ顔だったのだから、推して知るべしである。

報道陣すら欺いた驚異的なスピード

 次にプレーの面だ。永井のスピードが世界でも通用することは、昨夏のロンドン五輪で証明済みだ。その時も顕著だったのが、永井のことを知らない相手に対してめっぽう強いということ。これは少なくとも今季においては好材料だ。永井が得意とするのはDFラインの裏に抜けるプレーだけではない。スピードを生かす術として、こぼれ球への素早い詰めと、相手DFへのフォアチェックも大きな武器なのである。特にフォアチェックはJリーグとAFCチャンピオンズリーグ(ACL)でも威力を発揮してきた。

「相手が永井をあまり知らない」という点で、名古屋での1年目を振り返ってみるとそれは明らかだ。公式戦初ゴールはACLで記録したのだが、藤本淳吾のフィードにDFの後方から追いつき、冷静なコントロールショットを流し込んだ。ちなみに相手は韓国王者・FCソウルである。その後のJリーグの清水エスパルス戦ではクリアボールをトラップしようとした相手DFに音もなく忍び寄り、文字通りボールをかっさらって玉田圭司の得点を演出。DFにとっては厄介極まりない選手なのである。

「こぼれ球に詰めるのは好きです。あとはDFのトラップが少しでもズレたら、かっさらってやろうと思っています」(永井)

 この手のエピソードで極め付きは、同じく名古屋1年目のACL、アウエーでのFCソウル戦だ。永井はこの試合で勝利を決定づける2点目を決めたのだが、現場にいた報道陣の誰一人として、その得点シーンを見ていなかった。ゴールの形はこうだ。FCソウルの決定機をしのいだ名古屋は、素早く前線に展開するもボールはそのまま相手GKに渡る。相手GKがDFラインへボールを渡そうとスローイングしたボールを、永井が俊足を飛ばしてカット。そのままゴールに流し込んだ。

 記者席の人間は相手の決定機をメモしていたり、相手GKがキャッチしたことでピッチの別の場所を見ていたりとさまざまだった。なぜ見ていなかったかと言えば、永井は常識的にはボールをカットできるはずのない場所にいたからだ。これは、相手が永井の特徴を知らないからこそ起きること。ロンドン五輪のスペイン戦もそうだった。MFイニゴ・マルティネスがレッドカードをもららったファウルは、カットされるとは思わなかったバックパスを永井がカットしたことから生まれたものだ。ベルギーリーグは1月28日時点で残り6試合。永井が研究される心配は少なく、そのスピードでベルギーリーグのDFを混乱に陥れる可能性は十分にある。

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著者プロフィール

1979年生まれ。雑誌社勤務ののち、2015年よりフリーランスに。以来、有料ウェブマガジン『赤鯱新報』はじめ、名古屋グランパスの取材と愛知を中心とした東海地方のサッカー取材をライフワークとする日々。

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