頂点極めた世界を意識する“成徳スタイル“ =春高バレー

田中夕子

“大本命”の星城をけん引する2年生エース

チームをけん引したのは2年生エースの石川。大会MVPに輝くなど、実力を遺憾なく発揮した 【坂本清】

 3月から1月に大会開催が移行して、3度目の開催。東九州龍谷が連覇を続けた女子に対し、男子の優勝校は1度目が東京第2代表の東亜学園、2度目は大エースを擁するわけではなく堅実な守備を誇る長崎の大村工。どちらも大会前に“本命”と目されたチームではなかった。

 そのジンクスを打ち破るべく、まさに今年の大会前に“大本命”とされたのが、愛知県代表の星城だ。8月の高校総体、さらには10月の国体で優勝を飾り、春高バレーで勝利を飾れば高校バレータイトルの“三冠”を達成する。

 小柄な選手が増え、近年の高校男子バレー界は混戦が続いてきたが、その中で一歩抜け出し“三冠”への挑戦権を手にした最強軍団のエースとして、チームをけん引するのは2年生の石川祐希だ。189センチとサイズは格別に大きいわけではないが、助走へ入るスピードとジャンプ力では他を寄せ付けず、クイックと同じスピードでレフト、ライトから放つ攻撃は「わかっていても止められない」ものであり、2枚、3枚のブロックの上から、横から華麗に打ち分ける技術も併せ持つ。10月のアジアユース選手権にも日本代表として選出され、エースとして活躍。高さを誇る中国、イランに対しても石川は得点を量産し、ベストスコアラーに輝いた。

 単に得点能力があるというだけでなく、勝負強さも石川の大きな武器の1つ。チームメートからも「相手にリードされていても、(石川の)スパイクの安定感があるから『逆転できる』と思わせてくれる」と信頼は厚い。

2年生主体のチームを支えた3年生の存在

高校三冠の偉業を達成した星城。2年生主体のチームを3年生がうまくサポートし、チームとしての結束を強めた 【坂本清】

 まさに盤石の大エースであることは間違いないのだが、欠点もある。星城を率い、ユース男子日本代表コーチも務める竹内裕幸監督いわく「体力に不安があり、疲れてくるとボールがたたけなくなる」
 筋持久力の値が低く、試合が終盤に差し掛かるとジャンプが落ち始める。そうなると全身の力がうまく使い切れていないため、ボールをたたく力も弱まり、試合開始当初は簡単に抜けていたブロックにかかるようになり、ブロックを抜いても相手のレシーブに拾われてしまう。

 どのチームにとっても集大成である春高バレーで、ライバル校がその弱点を突いてこないはずがない。三冠達成のために、カギとなるのは何か。竹内監督はこう言った。
「石川と(その対角に入る)山崎(貴矢=2年)。2人のエースが持つ欠点、弱点をいかに表面へ出さないように戦うか。マイナスを補うために個々がスキルアップに励むだけでなく、バランスを整えるべく、2年生主体のチームを支えてくれたのが3年生たちでした」
 
 3年生は10名。そのうち5名はユニフォームを着られず、スタンドで後輩主体のチームに声援を送る。チームのためとはいえ、選手である限り、悔しさを感じないはずがない。それでも試合が近づけばスパイカー陣の練習をスムーズにするために球出しや球拾い、ライバル校エースを想定し、台の上から何十本、何百本のスパイクを打ち、勝利のためにと各々ができることを探し、後輩のサポート役に徹してきた。

 3年生で唯一、レギュラーとして出場したセンターの山内康敬が言う。
「モチベーションを落とさずに、控えの3年生がチームを支えてくれた。その姿を見た2年生が『3年生のために優勝する』と言ってコートの中でチームを引っ張ってくれたから、国体や高校総体で勝っているからと驕(おご)ることなく、戦いきることができました」

 国体に続いて、大塚と対戦した決勝戦。1、3セットを取り、24−24で迎えた第4セットもレフトからセンターに切り込んだ石川にトスが上がる。
「苦しくなっても決め切れるように、打ち込みを積んできた。上がったトスは、全部決めようと、思い切り打ちました」

 3枚ブロックの上からたたき込んだ24点目のスパイク得点でマッチポイントとし、最後は石川のサービスエースで試合を決めた。エースがその名に恥じぬ活躍でつかんだ優勝。星城は見事に“三冠”を達成した。胴上げで宙を舞った後、竹内監督は笑顔で選手たちを称えた。
「下級生主体のチームを上級生が支え、一緒に戦ってくれた。最高のバランスを生みだし、ものすごい記録を成し遂げてくれた選手に感謝します」

 個の力を結集させた最強チームの星城が、“大本命”のプレッシャーをはね退け頂点に立った。

<了>

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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