躍進する桐光学園が得た“最後の一歩”=挫折を経て作り上げた堅牢な守備組織

平野貴也

プリンスリーグで磨かれたゴール前の集中力

プリンスリーグを戦う中で市森の走力やパワーなど、個々の良さを見つけることがチームは強くなっていった 【写真は共同】

 スタイルの変化と同時に強さを磨けたのは、強豪Jユースと切磋琢磨する場が身近にあったからだ。東京Vユースなどが2年前に新設された最上位のプレミアリーグに抜けた現在も関東が最激戦区であることに変わりはない。今季の関東1部は、FC東京U−18(2009年度・Jユースカップ)、柏レイソルU−18(2012年度・日本クラブユース選手権)、市立船橋高校(第90回高校サッカー選手権)、横浜FMユース(2010年度・Jユースカップ)、前橋育英高校(2009年度、高校総体)、山梨学院大学附属高校(第88回高校サッカー選手権)、桐蔭学園高校(2011年度、高校総体)と10チーム中7チームが近年の全国タイトルホルダーという強力なラインナップだった。そのなかでも、桐光学園は今季、このリーグを優勝した。そして、プリンスリーグ東海優勝の磐田ユース、同北海道優勝の大谷室蘭高校を破り、来季のプレミアリーグ参入を決めた。

 数多くのピンチを体を張ってしのぎ、数少ないチャンスを物にする。単にリーグに属しただけでなく、強豪を相手に勝利を求めたからこそ「ぎりぎりの場面をたくさん経験した」と佐熊監督はチームが強くなった要因を話す。今大会の厳しい場面を振り返っても、選手の口からは「プリンスリーグに比べれば……」という言葉が多く聞かれた。特に両ゴール前の集中力の高さは、間違いなくリーグの中で磨かれた物だ。

選手の個性を見出した監督の手腕

 桐光学園は、こうしたJユースとの戦いの中で選手の個性を見つけることにも成功した。主力選手の多くは、近隣のジュニアユース出身で技術が高い。ただし、Jユースに昇格できなかった選手が多いとも言える。今大会3試合の先発はすべて同じだが、約半数の5人がJクラブのジュニアユース出身者だ。佐熊監督は「同じことをやっても追いつかない。僕たちは違うアプローチをしている。平均値の高い選手をそろえられるJユースと戦うには、それぞれの良さを出すしかない」と話した。

 チームとしては、技術を伸ばすばかりでなくメンタルを追い込む合宿などを実施した。「下手」だがフィジカル能力の高い市森は、自他ともに認める走力とパワーを評価されて先発に定着した。市森とは逆パターンの選手もいる。横浜FMジュニアユース出身の諸石健太は「中学時代は身長が大きくて戦えていたけど、3年生になると自分より速い選手には勝てなくなった。それでユースには上がれなかったけど、佐熊先生が声を掛けてくれた。桐光に来て、まず自分には身体能力がないことをハッキリと気付かされた。そんな時にやり方を変えた方がいいと佐熊先生からアドバイスをもらった。まず、ポジショニングを意識して、どうすればスピードがある鋭い相手と戦えるのかをここで磨いた。ユースに上がれなかったのは一つの挫折だけど、桐光に来て代表にも入れたので良かった」とプレースタイルを変え、一度は失った自信を取り戻した3年間を振り返った。対戦相手として、その成長ぶりを見た横浜FMユースの松橋力蔵監督は「ジュニアユースのころのプレーは見ていたけど、代表入りなんて考えられなかった。頑張ったんだなと思う。すごい」と驚きを隠さなかった。

 Jユースとも渡り合える堅守と、個性の連係が紡ぎ出す攻撃。全国の舞台で久しぶりの輝きを放つサックスブルーが目指す目標は一つだ。FW市森は「この舞台に立てるのは人生の大きな経験です。自分の可能性を見出してくれたのは、佐熊先生への感謝の気持ちは計り知れない。上にいくほど期待は大きくなると思うけど、3年間やってきたことを出せば結果は出ると思う。国立だからというイメージじゃなく、目の前の一戦に対し、芯をぶらさずにやっていきたい」と決意を示した。準決勝、そして決勝へ。国立で恩師を胴上げするゴールまで立ち止まるつもりはない。

<了>

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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