望月嶺臣が目指す“セクシーフットボールの再来”=高校選手権・注目校紹介 野洲編

安藤隆人

昨年の悔しさを力に変えて

名古屋入団が内定し、今大会でも注目を集める望月。予選決勝でも2得点に絡んだ 【安藤隆人】

 昨年度の全国高校サッカー選手権大会。望月嶺臣は熱戦が続く関東にはいなかった。なぜならば背番号10を背負ってプレーする野洲高校は、この大会には出場していなかったからだ。滋賀県予選決勝、台風直撃の豪雨という最悪のコンディション下で、野洲は守山北に1−3の敗戦。高校サッカー界最大の祭典を、テレビで見なければならない状況を強いられた。

「知っている選手が出ている試合は見ました。でも、何で自分たちが出ていないんだろと思ってしまいましたね」

 この悔しさから1年がたち、3年生となった。名古屋グランパスへの入団が内定し、大会の目玉選手となって、彼は選手権の舞台に帰ってきた。県予選決勝は、昨年と同じ雨。しかし、悔しさを力に代えた望月は、攻撃の中心としてスリッピーなピッチをものともせず、質の高いプレーを見せた。

 先制点の起点となるスルーパスを送り込むと、2点目も彼のノールックパスから生まれた。綾羽を相手に2−1の勝利。見事に昨年のリベンジを果たしたが、試合後の彼の姿は喜びよりも納得がいっていないものだった。仲間に背中をたたかれ、励まされるシーンもあったほどだった。

「ほっとはしています。絶対に選手権に出る気持ちで戦ったので。ただ、まだ自分の力を出し切れなかった」

 これは彼のプロ意識の表れだった。かねてより、望月はこう語っている。

「自分は代表として世界大会(2011年のU−17ワールドカップ=W杯=)に出ました。周りは僕のことを『代表選手』と見ている。それにMFは常に安定したパフォーマンスを見せないといけないポジションだと思うので、毎試合質の高いプレーをしなければいけない」

苦しみを味わってきた1年半

目指すのは“セクシーフットボールの再来”。優勝した第84回大会以来の旋風を起こせるか 【安藤隆人】

 名古屋に入団が内定したことで、さらに周囲の注目度は高まった。より質の高いプレーが求められる中で、常に納得のいくプレーをすることは、簡単なことではない。だからこそ、彼は妥協せず、自分をしっかりと見つめている。

「誰しもプロに行くとなったら注目すると思います。できるだけ意識をしないようにしていますが、そういう目で見られているんだというのは考えておきたいと思います。当然、周りから騒がれても、自分がぶれてはいけない。別に僕がやっていることに変わりはないので、メディアに出たから有名になったということを意識しないようにやってきました」

 望月は、U−17W杯後の1年半で多くの苦しみを味わってきた。U−17W杯で、彼はレギュラーとして活躍しながらも、準々決勝のブラジル戦を前に原因不明の体調不良に陥った。結局、ブラジル戦には出場できず、チームも2−3で敗れた。

 帰国後もコンディションが戻らず、食事ものどを通らないこともあった。その年のインターハイでは存在感を発揮できず初戦敗退。選手権予選でも決勝で敗れ、全国への道は閉ざされた。そして今年はコンディションも復調してきた矢先に、左足中足骨骨折に見舞われ、長期離脱を強いられた。その間にチームはインターハイ予選で敗れ、プリンスリーグ関西1部でも低迷。1年生からのレギュラーが大半を占め、集大成の年になっていたが、チームとしても思うような結果が残せず、彼は苦しんだ。

レギュラーはすべて3年生

 しかし、「いろんな経験をすることができました。苦しんだ分だけ多くのものが見えるし、得られる。その時はそんなことを考える余裕はありませんでしたが、今となってはそう考えています。気持ちの部分で成長したと思います。けがの時も、何か変わろうというモチベーションをもって過ごすことができた。フィジカル面だったり、メンタル面だったり、考え方だったり、自分の中でプラスに持っていけたと思います」と語ったように、彼は精神的にも肉体的にも一回り大きくなって帰ってきた。

 そして、選手権出場を勝ち取り、最後の大会で自分自身の、野洲高校サッカー部としての集大成を見せようと、モチベーション高くこの大会に臨もうとしている。

「自分たちのサッカーの集大成を出せる場所が選手権。春先や夏場までは僕も含め、けが人が多くて、メンバーが思うようにそろわなかった。でも、ようやくみんなそろって、チームとしての駆け引きとか、判断の質が上がったと思います。余裕ができたというか、自信があるからそれが出た。全員が成長したと感じるので、すごく頼もしいです」

 レギュラーメンバーはチーム史上初と言っていい、オール3年生。“セクシーフットボールの再来”へ。望月を始め、苦難を乗り越え成長を遂げた選手たちが、最後の選手権で優勝した84回大会以来の旋風を目論んでいる。

「僕たちが魅力的なサッカーをすることで、僕たちのサッカーの方が世界に通用する。より楽しめることを証明したいです」

 野洲サッカーの寵児とも言える栄光のナンバー10を背負う望月嶺臣。日本サッカーの将来も担っていかなければいけない逸材が、大きな自信を手に持って臨む選手権。まずは今大会最大の好カードと目される、青森山田との初戦に臨む。

<了>
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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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