日本バレー界の育成をリードする堺ブレイザーズ=ジュニアからの選手輩出で近づいた理想への道

市川忍

順調には進まないジュニアチームの拡大構想

堺は育成部門で成功を収めつつあるが、ほかのチームに目を移すと、必ずしも順風満帆とは言えない状況だ 【SAKAI Blazers】

 ここまで堺のジュニアチームを紹介してきたが、ほかのチームの現状はどうなっているのだろうか。

 現在、V・プレミアリーグに所属する男女16チームの中で、直属のジュニアチームは堺ジュニアブレイザーズ、北九州ジュニアブレイザーズ、佐賀ジュニアブレイザーズ、パンサーズジュニア、東レアローズジュニア、豊田合成ジュニアトレフェルサの6チーム(※)。各チームともバレーボール部のOBが部長や監督を務め、時には現役選手も臨時コーチとして子どもたちの指導にあたる。最近ではジュニアチーム同士の交流も徐々に増え、先に行われた堺のホームゲームではジュニアブレイザーズとパンサーズジュニアのテストマッチも開催された。

 ジュニアチームを発足した豊田合成ジュニアの監督で、現役時代は全日本でも活躍した川浦博昭はこう語る。
「自分の場合は現役を引退した昨年の5月、すぐにジュニアチームのスタッフとして呼ばれ、チーム立ち上げの準備に入りました。まだ1年目ということで今は手探りの状態ですが、小学生の部と中学生の部、合わせて31名の選手を預かっています。男子は競技者が少ないと懸念されていますけど、募集をかけたときは予想より多くの子どもたちが応募してくれて驚きましたね」

 堺に限っては入団資格を「中学校にバレーボール部のない選手」と定めているが、そのほかのチームの監督、広報担当者が口をそろえるのは「中学の部活動では物足りなくて、ジュニアチームに入る子どもが多い」ということだ。在籍者に入団理由を尋ねると、バレーボール部はあるものの練習量が少ない、専門知識を持った指導者がいないという、中学校の男子バレー部が抱える問題点も浮かび上がってくる。

 一方のジュニアチーム側にも課題は多い。ある関係者は言う。
「万が一、子どもがけがをしたときに誰が責任を取るのかと、ジュニアチームの発足に反対する企業はいまだに多いですね。それが、ジュニアチームが増えない原因のひとつではないでしょうか。そして中学のバレー部に在籍しながらジュニアチームにも参加している生徒の場合、自分たちの試合の期間は生徒を出したがらない中学も多い。その辺りを調整しながら活動しなければいけない難しさは感じています」
 
 また、ある関係者もこうこぼす。
「もっとチームに関わりたいと思っても監督業が専任ではないので、どうしても手が回らないというジレンマは常にあります。今後、Vリーグ機構がどういう展望を持っているのか、まったく見えてこないという不安はあります」

 ジュニアチームのスタッフは、シニアチームの事務職などほかの仕事を兼任している。そのため慢性的な人出不足に悩まされているケースも多い。4団体(堺、パナソニック、東レ、豊田合成)のあとに続くチームが出てこない現状を見ても、ジュニアチーム拡大の構想は順調に進んでいるとは考えにくい。

 05年、各企業にジュニアチーム発足を働きかけた元Vリーグ機構規約委員会の小田勝美(株式会社ブレイザーズスポーツクラブ専務取締役)は言う。
「足並みはそろいませんね。ただ、これはもう仕方のないことだと思っています。どのチームも今はシニアチームが勝つこと、シニアチームが企業に見放されないよう頑張ることで頭がいっぱいで、ジュニアチームの設立を考える余裕がありません。ただVリーグ機構の木村憲治代表理事会長は“ジュニアチームでプレミアリーグを作りましょう”という展望を常にいろいろなところで語っています。とにかく地道に働きかけるしかないですね」

西野監督「理想は実現できないものではない」

堺ジュニアブレイザーズの西野監督(中央)は、「決して実現できない理想ではない」と力強く語った 【SAKAI Blazers】

 堺ジュニアブレイザーズの西野監督は言う。
「ジュニアブレイザーズは3つの理念を掲げて発足しました。その中のひとつに『日本バレーボール界を背負うトップレベルの選手、指導者を発掘育成する』という理念があります。発足当初、この理念を見たときには正直『ハードルが高いな』と思いました。でも、こうしてジュニア出身の佐川がブレイザーズに入団します。そして最近ではほかのOBもKIDSチームのコーチとしてブレイザーズに関わっています。佐川が(高校、大学をへて堺に)戻るまで7年、そして発足からは11年かかりました。時間はかかりましたが、わたしたちの理想は決して実現できない理想ではないと実感しています」

 堺ジュニアブレイザーズがたどってきた道のりも決して平たんではなかった。一時は部員が6名まで減ったこともある。しかし、その危機が「自ら選手を勧誘する」という発想を生み、堺市内の小学生男女児童を対象とする「KIDSバレーボールスクール」の誕生につながった。
「とにかく長いスパンで物事をとらえて、継続することが大事です。ブレイザーズができないことは、ほかのチームにもできない。自分たちがけん引するのだという自覚を持って、継続するしかありません」(ジュニアブレイザーズ・西野監督)

 V・プレミアリーグのジュニアリーグ設立は、一長一短に進む構想ではない。理想を実現するためには長い年月がかかると覚悟を決め、関わる人間が持久力をつけていくしかない。

 最後に佐川は言った。
「もちろん、ここまで来たら全日本を狙いたいですし、五輪にも出場したい。何より、ジュニアブレイザーズの出身だから(話題性で)入団できたとは思われたくありません。そのために必ず結果を残したいですね」
 佐川にとってはV・プレミアリーグへの参戦が最終目標ではない。だが、2013年にトップリーグでデビューを果たすであろう佐川の姿は、いつか芽を出す可能性のため、種をまき、水をやり続けることの大切さを教えてくれるはずだ。

※JTサンダーズが参加協力するトップス広島は除く

<了>

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著者プロフィール

フリーランスライター/「Number」(文藝春秋)、「Sportiva」(集英社)などで執筆。プロ野球、男子バレーボールを中心に活動中。

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