広島、“もったいない大会”で得た収穫と自信=今季を象徴するプレーで世界5位に輝く
キャッチフレーズ通りの“おしい”結果
5位決定戦で2ゴールを決めた佐藤(右)。広島らしいコンビプレーがずい所でさえわたった 【写真は共同】
森崎浩からのパスは高萩の足下へ。ボールを前に持ち出すと、DFが慌てて彼のもとにプレスをかける。スライディングで一度とられたボールのこぼれを再び高萩が奪うと、二人のDFの足と足の間、ミリ単位の精度でスルーパスを通した。
そのスルーパスをフリーで受けたのは佐藤寿人。相手にしてみれば「どうして、彼がそこにいるのか」が分からなかっただろう。もっとも警戒していたはずなのに、気がつけば佐藤は危険なスペースに顔を出し、高萩のパスからこの試合のダメ押しとなる3点目を奪った。
12日に行われたクラブW杯の蔚山現代との5位決定戦で、今季初の逆転勝ちを収めたサンフレッチェ広島の2012年を締めくくったのは、高萩のアシストに佐藤のゴール。チームのアシスト王とJリーグの得点王という今季を象徴するコンビによるものだった。
それにしても、広島にとっては“もったいない”大会だった。広島県のキャッチフレーズが“おしい! 広島県”だが、その言葉通り“おしい!”結果となった。
すべては準決勝のアルアハリ戦に集約される。この試合、内容だけでみれば、ここ数カ月の中でもベストに近いプレーができていた。コンビネーション、運動量、攻撃の組み立て。特に前半の広島は、失点シーン以外はほぼパーフェクトだった。フィジカルで勝るアルアハリの攻撃をかわし、中央・サイドとボールを出し入れしながら、相手の守備を完ぺきに崩していた。後半、アルアハリがサイドハーフも下げて6バック状態を構築し、サイドにフタをしても広島の攻勢は変わらなかった。
だが、いくら相手を崩しても、最後にモノを言うのは“何点とったか”だ。サッカーはチャンスの数ではなく、得点の数で決まる。その当たり前の摂理を、この試合ではまざまざと見せつけられた。アルアハリの現実的なチャンスは、2得点のほかはGK西川周作が負傷退場した開始早々のシーンくらい。一方、2桁にも及ぶ決定機を創出した広島は、セットプレー崩れからの1点に終わり、敗退が決定した。
アジア王者からの勝利は、大きな財産に
試合の途中でコリンチャンスのサポーターが少しずつスタンドに現れ始めた。時折、彼らが声を合わせて歌を歌い始める。その歌の巨大な音量、迫力といったらなかった。あっという間に、スタジアムを制圧してしまった。
そういう雰囲気の中で、広島の選手たちにプレーしてもらいたかった。コリンチャンスの世界レベルの守備に、広島のクオリティーがどれほど通用するか、見てみたかった。
「コリンチャンスとやりたかった」。大会終了後の青山敏弘の言葉である。彼は、さらに続けた。
「Jリーグの方がレベルが高いと思う場面もあったし、本当の意味で世界レベルを痛感することはなかった。やるからには世界を目指していたし、準々決勝で負けるとも思っていなかった」
佐藤も「これが世界かと驚くようなプレーはなかった」と語り、森崎和も「もっと上にいけた。5位になった安堵(あんど)感はあるが、悔しさの方が大きい」と言う。アルアハリも蔚山現代もそれぞれの大陸王者。蔚山現代はFC東京や柏レイソルを打ち破って王座につき、アルアハリはエジプトを代表する国家的クラブで欧州でも名前が知られている名門だ。だが、それでも広島の選手にとっては“想定内”のレベル。“未知数の世界”は、そこにはなかった。それだけに、アルアハリ戦の敗戦は痛恨だった。自分たちのベストに近いパフォーマンスが出せただけに、悔しさがにじむ。
ただ、蔚山現代戦については、本当のチーム力が試された一戦であり、そして大きな収穫を得た戦いでもあった。
シーズン通して戦ってきた選手たちは、疲労が蓄積し、体の節々は傷んでいた。それでもアルアハリ戦はモチベーションでカバーしていたが、それももう限界だった。実際、森脇良太は左足を負傷し、蔚山戦の出場はかなわず、青山敏弘も前日練習は回避するほど、コンディションは厳しかった。
森保監督はそこで、もっとも体力を必要とする両サイドを入れ替え、リベロに塩谷司、ストッパーにファン・ソッコを起用。アルアハリ戦とは4人の選手を入れ替えて臨んだ。その上でつかんだ、アジア王者からの逆転勝ちは、広島のチーム力そのものが底上げできたことを証明した。と同時に、来季の戦いに向けてチーム内の競争がより激しくなることを予感させるものとなった。
「ACLを戦うにあたり、もっともっと力をつけないといけない。そしてもう一度、この素晴らしい大会に戻ってきたい」
森保監督は、そんな言葉でこの大会を締めくくった。まだ、来季のチーム構成がどうなるか、明確になってはいない。だが、選手を大きく入れ替えてもつかむことができたアジア王者からの勝利は、チームにとって大きな財産となったことも確か。その自信を胸に、来季は再び、“団結の紫”は鍛錬の時期を迎える。
<了>
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