香川真司が抜けたドルトムントの現状=CLでの躍進とリーグ戦不調の真実

中野吉之伴

王者を苦しめる対戦相手のプレーの変化

リーグでの不調とは裏腹に好調を維持するCL。その理由は何なのか? 【写真:AP/アフロ】

 それでもチームの調子が良い、あるいは各国のチャンピオンチームと対戦しているCLでは、相手も引いて守りを固めてというサッカーではなく、自分たちのスタイルで真っ向からぶつかってくるために、自分たちの運動量を生かした積極的なプレスから、お家芸となった電光石火の攻守の切り替えの速さが生きている。ロイスやゲッツェといった選手にとっても、スペースをより使うことができるため、個人技を発揮しやすい。

 しかし、ブンデスリーガでは真っ向から向かってくるクラブが少ない。ドルトムントは2連覇を果たしたことでドイツ中から賛辞と称賛を受けた。それは同時にほかのクラブからのこれまでにないマークと対抗意識を受けることになった。

 開幕前にバイエルン会長のウリ・へーネスは「これまで彼らはFCバイエルンの影を歩いてきた。その中では戦うことは簡単だ。しかし、今や彼らは追われる身だ。2年連続優勝チームとしてこれまで長年FCバイエルンがしてきた経験をすることになる。どの対戦相手もシーズンの決定戦のつもりで立ち向かってくる」と警告していたが、その言葉通りドルトムントは各試合で相手チームの必死の抵抗に遭い、特にアウエーでは第9節のフライブルク戦で勝利するまで1勝もすることができなかった。

 残留争いをする下位チームだけではなく、上位チームでもドルトムント対策として時に守備ラインを極端なまでに深く敷き、中盤ではファウル覚悟の激しいプレスをしかけてきている。引き分け狙い、うまくいけばカウンターからの得点を守りきっての勝利と割り切っている相手だけに前におびき出すことが難しい。

難しい「モチベーション」と「集中力」維持

 また、CLでうまくいっていることがブンデスリーガでのモチベーション・集中力の維持を難しくしている。例えば数日前、世界トップクラスのレアル・マドリーと87000人の超満員の中で対戦した数日後に22400人でいっぱいのフライブルクとアウエーで戦うとする。止めるべき相手はクリスティアーノ・ロナウドやメスト・エジルという一瞬たりとも気の抜けないスター選手ではなく、ダニエル・カリジュリやマックス・クルーゼといった選手だとしたらどうだろうか。どんなに監督が「集中しろ! 相手を絶対に甘く見るな!!」と言い、選手も「相手を過小評価したらいけない」と自分に言い聞かせても、選手も人間だ。どこかでやはり無意識に影響はある。頭のどこかでほんのちょっとでも「今日は自分のプレーをほんの数パーセントくらい抑えても大丈夫かな」と思ってしまうと100パーセントの力を出せないのはもちろん、だからといってほんの数パーセントだけ力を抑えることもできず、自分の力をコントロールできなくてミスを連発してしまう。どんな状況でも100パーセントの力を出すためには相当のセルフマインドコントロール能力が必要で、監督のユルゲン・クロップは選手に刺激を与えるのに細心の注意を配っていることだろう。

 とはいえリーグ2連覇、リーグとカップ戦の2冠はだてじゃない。試合を重ねるごとにチームの調子は上がってきている。チームの内の連係も良くなってきた。前述のフライブルク戦も苦戦しながら2−0で勝利。火曜日にはアーレンとのドイツカップ2回戦を4−1と順当勝ち。特にドルトムントはドイツカップでここ2年、格下相手に苦労をしていただけに、問題なく勝てたことは現在のチームの充実度を物語っている。

 リーグではここまでバイエルンが独走していたが、前節初めて黒星を喫した。もちろんまだ勝ち点差での広がりがあるが、昨シーズンも一時は勝ち点差11を付けられながらも前半戦でその差を詰め、見事に逆転でリーグ優勝を果たしたのだ。大型補強を敢行したバイエルンが昨シーズンと同じ失敗をするとは思えないが、だからといってこのままバイエルンの一人勝ちでは面白くない。そして今季そのバイエルンに対抗できるのは、シャルケ04と王者ドルトムント以外には考えられない。

<了>

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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