母の祖国で進化を続ける酒井高徳=クラブでの活躍を代表につなげられるか

杉山孝

安定した守備で乾を抑える

マッチアップした乾(右)に仕事をさせず、前半だけでベンチに退けた酒井高。守備でも好プレーを見せた 【Getty Images】

 その3日後のリーグ戦は、守備が目を引く一戦となった。

 1部に昇格したばかりながらリーグ2位と好調のフランクフルトを迎え、5万人を超える観客は2日前から突然冷え込んだ空気を熱く振るわせた。酒井高が対峙(たいじ)する相手の左サイドでは、10月の日本代表戦で2試合に出場した乾貴士が背番号8を背負っていた。

 要注意であるのは、「僕としてはチーム自体よりは、乾くん」と認識していた。青いユニホームを着ればチームメートでもあるテクニシャンの怖さは、よく理解している。

 本人はチームとしてのプレ―の徹底を強調するが、酒井高の守備は非常に忠実だった。第一の要注意人物である乾をしっかり自分の守備範囲に置き続け、自分の右後方へ走り込もうとする相手のレフトバックから監視の目を離さない。前半残り2分の場面では、パスを受けた乾の背後からすっと寄せてボールを突付き、カウンターにつなげた場面もあった。決して楽ではない仕事を45分間続けると、後半のピッチに乾の姿はなかった。

 試合終了後、3人の日本人選手が言葉を交わしていた。けがで10月遠征は外れたが、日本代表の主力である岡崎慎司と再度の狼煙(のろし)を挙げた乾、そして今回は追加招集だった酒井高である。この試合、フル出場したのはシュツットガルトの背番号2だけだった。

「まだ(内田、長友の)レベルじゃない」

 今回の遠征メンバーでは、宮市亮がブラジル戦で交代出場したことで、最もキャップ数が少ないのはAマッチ出場1試合のGK権田修一と酒井高の2人となった。南アフリカ・ワールドカップで同じサポートメンバーだった香川真司は、早くもドイツを後にして世界的名門の扉を開き、日本代表のナンバー10を背負う。左右で争える利点はあるとしても、右にはシャルケ、左にはインテルのサイドバックが陣取る。越えなければならない壁は高いが、酒井の目には迷いがない。

「代表に呼ばれていることに関しては非常に光栄に思っていますが、やはりまだあの(先輩サイドバックの)レベルじゃないなと自分は思う。まだまだやらなきゃいけないし、若さというか、中途半端な考えでミスしたり、中途半端なポジション取りでやられたり、タイミングを誤って入れ替わられるような形でスカっとやられたりすることも多いし。今回の(日本代表)2試合を見ても、(酒井)宏樹も含めて、サイドバックはしっかり守れているし、しっかり攻撃できている。自分はまだ、そのレベルじゃないと思います。ここで出続けることでより成長できると思うし、それでまたそこにひとつでも近づければなと思います」

 まずは「サイドバックもディフェンダーの1人」と、守備の重要性を説く。ブラジル戦が行われたヴロツワフを離れた際の、あの目の光のままに。
 この週のコメントで、酒井高は「ダイナミックさ」という言葉を多用した。例えば乾が絡んだ際のフランクフルトの攻撃に関して、あるいは自身の攻撃参加について。

「今日は上がりたかったけど、タイミングが良くなかったし、自分の迷いというか、まだ攻撃の部分でダイナミックさに欠けている。チームとしてもそうですが、自分としても守備から入った方が、勢いはついてくると思います。守備から攻撃に早く転じる、ということを今日は心がけていました」

「今は代表でのことはあまり考えずに、チームの調子も上がってきていることですし、チームのことだけ考えてやろうと思います」
 今は地歩をしっかり固めつつ、ダイナミックさを繰り出す機会を待つ。ボールが逆サイドにある時の攻め上がりは、はまれば相当に効果的だ。

<了>

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著者プロフィール

1975年、ジーコとストイコビッチと同じ3月3日生まれ。新聞社で子供からプロまで5年間、サッカーをメインにみっちりスポーツを取材。サッカー専門誌編集部を経て09年に独立。同時にGoal.com日本版編集長を務め、2012年7月まで同サイトの日本での確立・発展に尽力。現在はライター・翻訳者・編集者としてサッカーとスポーツを追い続ける。サッカーW杯取材は現在のところ02年、10年の2大会。

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