母の祖国で進化を続ける酒井高徳=クラブでの活躍を代表につなげられるか
クラブでの出場が代表に直結せず
酒井高徳はシュツットガルトで定位置をつかみながらも、代表ではほとんど出場機会を与えられていない 【Getty Images】
A代表の10月の親善試合2試合でもキャプテンとして先発した長谷部誠は、監督交代でめぐってきたチャンスで即座に結果を残して力を示したが、今季はボルフスブルクで出場機会を得られず試合勘の不足が懸念されていた。また、今夏ハノーファー96へ加わった酒井宏樹もクラブでの先発定着には至っていないものの、そのフランス代表戦とブラジル代表戦で出場機会を得た。一方、クラブでの出場が代表戦に直結しない選手もいる。昨冬の移籍市場でシュツットガルトに移籍した酒井高徳である。
10月の欧州遠征で、酒井高は当初からメンバーに名を連ねていたわけではない。伊野波雅彦の負傷離脱を受けての追加招集だった。出場機会はなく、ブラジル戦後のミックスゾーンで彼を呼び止める記者はいなかった。だが、スタッフとあいさつを交わす表情は明るく、すでに気持ちを切り替えているように視線を上げて会場を後にしていた。
その翌週のシュツットガルトでの2試合に、酒井高の現状が凝縮されていた。
25日に行われたヨーロッパリーグのコペンハーゲン戦前、地元ラジオ局の記者として毎週シュツットガルトの試合を取材しているというフィリップ・ラーム記者は、英語でのやり取りをおそらく少々のリップサービスで埋めながら、こう話した。
「ゴートク(高徳)はよくやっていると思うよ。右サイドでも左サイドでも良いプレーができるしね。魅力は攻撃だ。クロスはもっとうまくならなきゃいけないけれどね。守備は……、悪くないよ。ドイツの方がJリーグよりもレベルの高い選手が多いから、それでレベルアップできたんじゃないかな。アツト・ウチダ(内田篤人)と比べて? ゴートクの方が速くてクレバーなんじゃないかと思うよ。それに若いしね」
「思い切りがなくなったら自分じゃない」
慎重なコペンハーゲンに対し、高い位置を取ってバランスの瓦解を試みる。また、ボールが逆サイドにある際の機を見た駆け上がりがパスを呼び込む。開始7分でボランチからの長いボールを引き出し、25分にも左サイドからの展開を導く鋭い走り込みがあった。
「最近は逆サイドでプレーを作っている時のバランスを意識していて、そこからスムーズに出ていくことを意識しています。そういう部分で効果的にというか、タイミング良く前に行けたかなと思います」
試合は0−0で終わったが、「昨シーズンのようなイメージを皆が持てるようになってきた」と話す表情には手応えがにじむ。
そして、ペナルティーエリアに入り込むプレーについては、「やはり結果という部分を求めたいと思っています」と貪欲(どんよく)さを隠さない。欧州の地でのサッカーでは、謙遜(けんそん)が必ずしも美徳とは限らない。ドイツは他国リーグと比べればチームプレーの意識が高いようだが、自分の存在を誇示しなければいけないのは、どの国でも変わらない。
「これがおれなんだ、というのをこっちの選手たちにも見せないといけないし、前に行った時の思い切りがなくなったら自分じゃないと思います」
エリア内からダイレクトで折り返したクロスが届けば1点ものだった後半9分の場面など、最後の一手の精度向上が必要であることは理解している。だが、「こっちに来てスピード感というか、攻撃に入ったときの迫力というのは、非常に学べると思う。自分の中でもドイツのサッカーが合ってきているのかな、と思います」というのは、母の母国という以上の相性の良さがあるのかもしれない。