異文化で確かな功績を残した落合英二 自費参加から「韓国一の投手コーチ」に

室井昌也

宜監督の解任後、新監督からの言葉「落合コーチに全て任せる」

 一方、試合の中でも歯がゆさがあった。投手起用については投手出身の宣監督が全て決めていたからだ。「最初のうちは“自分だったらこうしたい”と考えながら見ていましたが、だんだん余裕がなくなって、監督が使いたい投手をそろえることが、仕事の中心になっていました」

 しかし、落合に思わぬ転機が訪れる。落合がコーチ1年目を終えた10年のオフ、契約を4年残す宣が監督を電撃解任されたのだ。チームの生え抜きOBを監督に据えたい親会社の意向だった。落合は宣あっての韓国球界入りということもあり、球団に辞意を伝える。しかし球団は強く慰留、新監督もそれを望んだ。監督の座についたのはフランチャイズスターの元遊撃手で、長年サムスンでコーチを務めた柳仲逸(49)。柳監督は落合に、「1年間このチームを見てきたのだからこれからも一緒にやろう。私はピッチャーのことは分からないから、落合コーチに全て任せる」と落合に投手起用の権限を与えた。

経験を生かした投手起用で成績が飛躍的に向上

 もともと、優れた投手を数多く抱えるサムスンだが、落合が投手起用を任されてからは、特にリリーフ陣の成績が飛躍的に向上した。前年10年のサムスンの中継ぎ投手の成績は38勝10敗33セーブ44ホールドで防御率3.35。この数字でもリーグトップだが、11年は20勝10敗48セーブ74ホールド、防御率2.44と前年に勝り、今年は14勝17敗39セーブ71ホールドで防御率は2.64。2年連続防御率2点台、リーグ1の好結果を残している。中継ぎの勝利数が減少したのは先発投手が勝ち星を重ね、2番手投手以降のロングリリーフが減ったからだ。

 落合は自身の経験を投手起用に反映させた。「ランナーがいる苦しい場面ではマウンドに上がりたくなかったですから、なるべく回の頭から使ってあげて、良いところで交代しました。そうしないと疲れちゃいます」。その起用法に選手も信頼を寄せる。プロ8年目の今年、韓国の通算セーブ記録227個を更新した守護神・呉昇桓(30)はこう話す。「落合コーチが1イニング限定で使ってくれるので、シーズン中、しんどくなることはありません」

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著者プロフィール

1972年東京生まれ。「韓国プロ野球の伝え手」として、2004年から著書『韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑』を毎年発行。韓国では2006年からスポーツ朝鮮のコラムニストとして韓国語でコラムを担当し、その他、取材成果や韓国球界とのつながりはメディアや日本の球団などでも反映されている。また編著書『沖縄の路線バス おでかけガイドブック』は2023年4月に「第9回沖縄書店大賞・沖縄部門大賞」を受賞した。ストライク・ゾーン代表。

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