デシャンのレ・ブルーはいまだ未知数=日本とのテストマッチを控えたフランスの現状

木村かや子

ベラルーシ戦で見えた修正能力

現代表はベンゼマ(右)、リベリーといった一流と呼ばれる選手もいるが、無名の選手も多く、チームプレーを重視したチームだ 【Getty Images】

 しかし、チームの進歩がよりはっきり見え出したのは、W杯予選2戦目のベラルーシ戦だった。前試合では、守備陣こそ高い評価を得たものの、攻撃的には得点シーン以外に目を引く連係はあまりなかった。それもあってデシャンは、ベラルーシ戦に先立ち、前試合でサイドがうまく使われていなかったことを指摘しつつ「クロスはあってもペナルティーエリア内に入る選手が少なすぎる。クロスが来る状況になったら、人数をかけてエリアに侵入しろ」と指令を発信。そして、選手たちはその指示を文字通り実行に移した。

 特に後半早々に生まれたフランスの先制点は、まさにその指示の具現化だった。左サイドを上がったクリストフ・ジャレが追随したリベリーにパスし、リベリーが、エリア内に入ったベンゼマめがけてクロス。相手DFは当然ベンゼマのマークに向かったが、パスはベンゼマの背後にそれ、後方からペナルティーエリアに突入したMFのエティエンヌ・カプーがこれをたたいてゴールを射止めた。

 このチャンスでは、やはりエリア内でジルーもボールを呼び込む動きをしており、ひとつのクロスに対し、3人がエリア内に侵入したことに。また得点シーンでは、ジャレ、リベリー、ベンゼマ、カプー、ジルーと、相手DFのマークを散らした選手まで入れると5人が関与しており、プレーの連動という意味でも、今後の指標になるものだった。

 ここまで1トップが多かったフランス代表では、後ろからの加勢が少ないせいでFWにマークをつけやすく、クロスしても楽に阻まれたり、トップが孤立したりすることも少なくなかった。それを修正するため、守備的な相手に対してはFWを2人入れようと考えた様子のデシャンは、この日はトップFWの位置にジルーを据えた上で、リベリーを左に、通常トップのベンゼマを右に配置し、サイドの2人がより流動的に動く戦法を採用。日ごろややつるみすぎるベンゼマとリベリーの持ち場が離れたことで、読まれやすいパスコースも減り、パスがより多くの選手に散って予想がつきにくくなっていたようにも思う。

 しかし、何よりうれしい驚きだったのは、指示を忠実に実行に移した選手たちの、『修正の素早さ』だった。実際、1試合前に見られたプレーの欠陥を、次の試合でただちに修正したフランスを以前に見たのがいつだったか、覚えていないほどだ。デシャンの指示の明確さのおかげなのか、謙虚で従順な選手が多かったせいなのか、単なる偶然なのかは分からない。確かにこの試合には、ウルグアイ戦が初招集だったカプーや、前述のCBペアやマブーバ、またクリストフ・ジャレ、ジルーなど、これから多く証明しなければならない献身的な選手が多々おり、反対にユーロで問題を起こしたサミール・ナスリ、ハテム・ベンナルファなど、我の強い選手は呼ばれていなかった。

 また68分には、エリア内のFWにクロスしようとしたジャレが、“うっかり”ダイレクトでゴールしてしまう、というラッキーなハプニングも発生。そして最後は、そこまでパスの選択ミスが多かったものの、常に全力で仕掛け続けていたリベリーが、ベンゼマのパスからループ状のシュートを決め、その努力の報酬を得た。より堅固で攻勢だった前半が無得点に終わり、ベラルーシの押しに苦しみ始めた後半に3得点したのだから、サッカーとは奇なり。デシャンの勝運を信じたくなるような試合でもあった。

 いずれにせよ、この試合での彼らはより連動してプレーしており、完ぺきには遠いものの、チームプレーという意味で進歩が見られた。一団となって守り、攻めるには、その分、選手がより精力的に走る必要がある。それもあってかデシャンは、マルーダら動きの衰えたベテランをはずして年齢層を下げると同時に、年齢に関わらず労力を惜しまないタイプの選手を導入した。デシャンの代表は、スタイリッシュというより、やや泥くさいチームである。ベンゼマ、リベリーなど一流と呼ばれる選手も中にはいるが、比較的無名な選手が増えたぶん、チームとして助け合ってプレーしようという姿勢が強まったように見えたのだ。

薄れつつある悲壮感

 W杯・南アフリカ大会で起きた選手の振る舞いの問題が先のユーロで再発し、世論の批判も再燃した。そんな中、とりわけ決然としたデシャンが監督となった効果で、新たに気持ちが引き締まったということも、部分的にはあるだろう。善かれあしかれ明確な考えを持つデシャンは、必要とあらば嫌われ者となることもはばからない。「才能は常に違いを生む。しかし才能があればそれで十分かといえば、答えはノンだ。“チーム”の観念は、必要不可欠なものなんだ」と指揮官は言う。

 才能溢れる選手を、振る舞いの問題ゆえに外すことができるか、と聞かれたデシャンは「もちろんだよ。チーム・スピリットに危険をもたらす選手はほしくない」と即答した。「才能はいくらあっても多すぎることはないが、それはチームに奉仕する才能でなければならない。自分の関心をチームの実りの前に置けば、ことは機能しないんだ。わたしは名門クラブで、偉大な選手たちとプレーする幸運に授かったが、真のチームスピリットなしに勝ったことは、一度もなかったよ」

 おそらくそれもあって、デシャンは、協会に課せられた出場停止期間を終えたナスリを、今回招集しなかったのだろう。「もちろん将来彼を呼ぶことは大いにありえるが、今はふさわしいときではない」と指揮官は言う。しかしまた「現在、世論はある選手に“悪”の烙印(らくいん)を押す傾向があるが、わたしは違う。2010年、リベリーは除外すべき選手の筆頭とされていたが、以来、彼は正しい道に戻り、ピッチで模範的姿勢を見せている」とも言い添えた。

 ベンゼマに代表でのゴールが出ていないことを問題視する者もいるが、反面、彼はW杯予選で2試合連続のアシストを記録している。ベラルーシ戦でも、活発に動く彼の存在がマークを引きつけるおかげで、他の選手のためのスペースが生まれており、アタックにおける彼の存在が極めて重要であることに変わりはない。一方、24歳のカプーは国際的には全く無名だが、この試合で明るい将来性を見せた選手のひとりだった。フィジカル的に頑健だが、技術力もあり、ボール奪回から攻撃参加まで、多分野で貢献する能力を持つ守備的MFである。

 故障のためディアビーとマブーバを招集できず、スペイン戦ではヤンガ・エムビワの不在でCBペアを変えざるを得ないため、フランスはそれでなくても厳しいスペイン戦に、ベストメンバーで望むことはできない。しかし、デシャンは「目標はすべての試合に勝つことであり、グループ2位になることではない。われわれは5チームによるグループにいるんだ。できるだけ多くのポイントをかき集めなければならず、ポカミスをする余地はない」と決意を見せる。

 個々の能力や現時点での完成度の低さから見て、現在スペインと張り合える力があるようには見えないものの、こうしてデシャンの代表は、希望の香りのする兆候を垣間見せつつ、一からのスタートを切った。厳格な印象ながら勝つと笑いを隠せない、表情豊かなデシャンなのだが、彼が運んできたもうひとつのプラスは、これまでどこか悲壮だったフランスに、笑顔が戻りつつあるということだ。もっとも、笑顔は勝利によってもたらされる。真のテストは、これからではあるのだが。

日本が付け入るすきは十分にある?

 最後に、フランスが日本戦で目指すところは何だろうか。日本戦には、その4日後の対スペイン戦に出るメンバーが出場し、重要マッチに向けての試運転をするというのが常識的予想だが、「日本戦をどう使うのか。対スペイン戦のシミュレーションになるのか、故障を避けるために、出場機会の少ない他の選手にチャンスを与えるのか」の問いに、デシャンはあえて明言を避けた。

「プレー時間が少ない選手に機会を与えたいが、代表キャンプ開始から9日も全く試合なしになるというのも困るので、そのへんは様子を見て……」と、意図的に言葉を濁した彼だが、おそらく試合の一部ではスペイン戦に向けてのテストをし、他の一部では6人の交代枠をフルに使って控え選手をプレーさせることが予想される。まだ穴も多く、日本代表が付け入るすきは十分あるように思うが、どうなるかは見てのお楽しみとしたい。

<了>

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著者プロフィール

東京生まれ、湘南育ち、南仏在住。1986年、フェリス女学院大学国文科卒業後、雑誌社でスポーツ専門の取材記者として働き始め、95年にオーストラリア・シドニー支局に赴任。この年から、毎夏はるばるイタリアやイングランドに出向き、オーストラリア仕込みのイタリア語とオージー英語を使って、サッカー選手のインタビューを始める。遠方から欧州サッカーを担当し続けた後、2003年に同社ヨーロッパ通信員となり、文学以外でフランスに興味がなかったもののフランスへ。マルセイユの試合にはもれなく足を運び取材している。

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