因果は巡るか、3歳牝馬エピセアローム=乗峯栄一の「競馬巴投げ!」

乗峯栄一

お目当てはダイワスカーレットの初仔

[写真1]安田隆3頭出しの1頭ダッシャーゴーゴー、十分勝ち負けを狙える位置にいる 【写真:乗峯栄一】

 秋GI初戦スプリンターズSの週だから、もちろんスプリンターズの有力馬を撮りにトレセンに行ったのだが、先週、待望の(というか、個人的にペーパー・オーナー・ゲームで取っているからという理由だけとも言えるが)ダイワスカーレットの初仔ダイワレーヌが松田国厩舎に入厩した。スプリンターズの馬を撮ったら、この馬を見に行かないといけない。

 予定していた6時開場の坂路一番乗りに間に合わなかったので、「こりゃ、カレンチャンは無理か」と勝手に判断し(実際は一番乗りではなかったようだが)この日は調教スタンド前の広い下見所でウロウロしてGIゼッケンを待つという、消極的カメラマンとして過ごすこととする。

[写真2]こちらはロードカナロア、能力的にはアッサリがあっても驚けない 【写真:乗峯栄一】

 坂路で追う馬も、追い切りが終われば平地に降りてくる訳だが、逍遙馬道の出口も2カ所あるし、坂路から平地馬場を経て出てくるとなると、これも出口が3カ所ぐらいある。毎週来ている専門のカメラマンならどの馬がどこから出てくるのか大体判断がつくのだろうが、飛び飛びにしか来ない人間で、しかも“カメラマン組合”(そんなものはないのだろうがトレセンのプロカメラマンたちというのは、何となく相互に情報を交換している雰囲気がある)にも所属していない者は、ただもう行き当たりばったりだ。

 それでも安田隆3頭出しのうち、ダッシャーゴーゴー[写真1]とロードカナロア[写真2]は7時過ぎに、2頭並んでゆっくりと目の前を通り過ぎてくれて、「うわっ、千載一遇、盲亀の浮木、優曇華の花」てな訳の分からないことを言いながら、バチバチカシャカシャ、シャッターを押す(カレンチャンは結局目の前を通らなかったので、セントウル前の写真でごめんなさい[写真3])。

敏腕女性担当のパドトロワ、ここで初GI来るか

[写真3]そして大本命のカレンチャン、短距離GI3連覇なるか 【写真:乗峯栄一】

 それから調教スタンド3階に上がると、ちょうど8時半過ぎにパドトロワが坂路で追い切っているのがモニター画面に写っていて、「え、いま坂路で追い切ったということは、もうじき下に出てくるってことや。撮れないか、その出てくる所を」と慌てて調教スタンドを降りる。「パドトロワってどこから出てくるか、分かりますか?」と何人かの知り合いに聞くが、右だろう、左ですよ、いや厩舎端の逍遙馬道の降り口でしょうなど、聞く者ごとに、てんでバラバラである。「キミらなあ、言葉が軽いんや、オレのように言葉に、こう、ズシッと重みを」などとグチりながら立ち往生していると、鮫島調教師と、パドトロワ担当・金山美世子調教助手の小柄な姿が見える。うわっ、ここや、ここで追い切りの安藤勝己から引き継ぐんやと興奮してカメラ構える[写真4]。

 男社会のトレセンで、女性が長く厩舎仕事をやるのは大変だと思う。鮫島厩舎が開業した10数年前、開業祝いを言いに行くと、馬房の天井を直すとかで壁面をよじ登っている女性がいて驚いた。それがこの金山助手で、当時はまだ独身で“宮”なんとかという旧姓だったと思う。その後、結婚して金山さんになったが、ご主人は競輪の金山栄治選手だ。結婚を機に、金山選手は広島選手会から滋賀選手会に移籍した。それだけ男を動かす女性なんだ、きっと。

[写真4]パドトロワと金山調教助手(右)、鮫島厩舎に初GIをもたらすか 【写真:乗峯栄一】

 パドトロワをアンカツさんから受け取った金山助手、スパッとパドに飛び乗り、胸を張って厩舎に帰っていく。めっちゃカッコよかった。初GI(たぶん鮫島厩舎にとっても初GIのはずだ)来ないものだろうか。

 そんなことをしながら、ようやく3頭のGI出走馬を撮って、まあこんなものかとベンチに座って落胆しいると、「コーヒー入れたげようか」と声を掛けてくる人がいる。「うっ?」と顔を上げると馬場監視員の制服を着た人がこっち見て笑っている。「誰? 馬場監視員なんか知り合いいないよ」と思ったが、よく見ると、ダイワエルシエーロ、ダイワスカーレットを担当していた松田国厩舎の斎藤正敏元厩務員[写真5]ではないか。そうだ、斎藤さん、定年退職後、馬場監視員の仕事をしていると聞いていた。
「わあ、斎藤さん、斎藤さんじゃないですか、今日、松国厩舎に、スカーレットの子供見せてもらいに行こうと思ってるんですよ」と、思わず抱きついてしまう。

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著者プロフィール

 1955年岡山県生まれ。文筆業。92年「奈良林さんのアドバイス」で「小説新潮」新人賞佳作受賞。98年「なにわ忠臣蔵伝説」で朝日新人文学賞受賞。92年より大阪スポニチで競馬コラム連載中で、そのせいで折あらば栗東トレセンに出向いている。著書に「なにわ忠臣蔵伝説」(朝日出版社)「いつかバラの花咲く馬券を」(アールズ出版)等。ブログ「乗峯栄一のトレセン・リポート」

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