因果は巡るか、3歳牝馬エピセアローム=乗峯栄一の「競馬巴投げ!」
ダイワスカーレット担当の斎藤正敏さん
[写真5]ダイワスカーレットを担当していた斎藤さん、とにかく若い! 【写真:乗峯栄一】
北九州出身の斎藤さんは、元々小倉に縁がある渋川久作厩舎(当時は阪神競馬場付き)に入って、そこから長期にわたる厩務員生活を始めた。東京五輪が開催され、シンザンが3冠馬となる昭和39年、斎藤青年20歳のときの話である。その6年後、関西各競馬場付きの厩舎が新設の栗東トレセンに集中移転することになり、渋川厩舎も斎藤さんも栗東に移ることになる。
昭和50年前後、ハイセイコーやカブラヤオーなど、まだ圧倒的に関東馬優勢だった頃だが、そのころ「競馬ニホン」のトラックマンをしていた8歳年下の松田国英青年が渋川厩舎に取材に来て、そこで斎藤さんと顔見知りになった。もう30数年前の話だ。それ以後、斎藤さんは小原厩舎、小野厩舎と異動、松田青年はトラックマンから調教助手となるという珍しい転身をしたあと、日迫厩舎、伊藤修厩舎に所属し、96年に調教師試験合格、厩舎開業となる。それでもまだ二人は再会しない。再会は02年の暮れ、調教師会室の前での偶然だった。「斎藤さん、いま厩務員探してるんだけど、うちに来てみない?」と松国調教師が声を掛ける。これが斎藤正敏・厩舎生活有終の美を飾るきっかけとなる。斎藤正敏58歳、松田国英50歳のときである。
ガチガチの持ち乗り制ではなく“担当馬ローテーション”をよく行う松国厩舎だが、それでもおおまかな系列というのは出来ていた。ただ03年秋入厩のダイワエルシエーロは、サンデー×ロンドンブリッジという良血ではあるが、松国厩舎初の“ダイワ馬”であり、そういう意味ではまだ“担当者ライン”が出来ていなかった。「先生、私そろそろ新しい車に買い替えたいんですが」という、斎藤正敏のよく分からないアピールがタイミングよく調教師の胸に響いてしまった。
もともと仕事の真面目さでは定評があったが、若い調教助手がほとんどの厩舎で、希少な厩務員、しかも転厩してきたばかりの58歳新人である。斎藤正敏はただ黙々とエルシエーロの面倒をみた。そして翌年5月オークス戴冠となる。厩務員生活41年で初めて手にした重賞がエルシエーロ2月のクイーンS、そして5月のGIオークスだ。斎藤さんの喜びは言うまでもないが、吉報はそれだけにとどまらない。この年のオークスは“ダイワ”としても初の牝馬GIであり、しかも数少ない“関西ダイワ”の快挙である。ダイワ・オーナーの“松国厩舎・斎藤厩務員”ラインへの信頼は高まる。「今度のメジャーの妹(ダイワスカーレット)もぜひこのラインで」となるのは当然のごとく思われた。そしてその指名により、斎藤さんは厩務員生活45年の、その終わりの7年だけで、一般厩舎スタッフが一生かけても獲得出来ないほどの重賞・GIを手にすることとなった。
注目のダイワレーヌ、中長距離で活躍するのでは
[写真6]ダイワスカーレットの初仔、注目のダイワレーヌ 【写真:乗峯栄一】
また栗毛のスカーレットに芦毛のチチカステナンゴの配合で、黒鹿毛の子供というのも意表を突くものがある。
しかしこの写真のように、横から見ると、瞬発力はありそうだ。ここに松国流調教と配合飼料が加わって、胸前や尻のあたりがグンと張ってくるに違いない。むしろ中長距離でそこしれぬスタミナを発揮する馬になるのではないか。
“石坂セレクション”アストンマーチャンの再来だ
[写真7]狙うは石坂セレクションの3歳牝馬エピセアローム(左) 【写真:乗峯栄一】
しかしこのアストンマーチャンの短距離転身は吉と出る。9月のスプリンターズSで並み居る古馬強豪を尻目にあれよあれよの逃げ切り勝利を演じる。3歳馬にとって、出られるクラシックレースを回避して、来年でも出られる古馬混合のGIを選択するというのは、なかなか勇気の要ることだ。
それが今年もあるんじゃないか。アストンマーチャンは年が明けてから急病で早世するという不幸にあったが、アストンのライバルの一頭ダイスカの仔が入厩した今週、この3歳で古馬混合スプリントレースに挑戦するという“石坂セレクション”がまた不気味に思えてきた。
[写真7]は今年桜花賞前の坂路写真だ。右が今秋、牝馬三冠に挑戦するジェンティルドンナ(この時点ではまだジョワドヴィーヴルの2番手と思われていたが)、左がこのあと桜花賞・オークス惨敗によって短距離路線を選ぶこととなるエピセアロームだ。
いよいよダイスカ初仔のデビューを間近に控えて、このアストンマーチャンの再現があるような気がして仕方なくなった。そういう因果のようなものは、親子サイクルの短い競馬という競技では結構ある。
勝って欲しいパドトロワは単勝だけ買って、ハンデに恵まれた3歳牝馬と石坂セレクションの理由で、エピセアロームから行くことにする。
エピセ頭固定、ヒモにカレンチャン、パドトロワ、ロードカナロア、ダッシャーゴーゴー、あと香港のリトルブリッジ、重馬場に強いマジンプロスパーの6頭、3連単30点で勝負する。