前人未到の4連覇、女王エスター・バーガーが涙の金メダル=車いすテニス
プレッシャーに打ち勝っての偉業 連勝記録も470に
パラリンピック4連覇を成し遂げ、金メダルを誇らしげに掲げるバーガー 【吉村もと/MA SPORTS】
2003年からただの1度も負けていない、車いすテニス界の絶対的なクイーン。いつもコートの上ではあまり感情を出さず、クールな表情で淡々とプレーする。それが、バーガーの印象だ。決勝という大舞台でも、彼女はいつもと変わらないように見えた。とはいえ、バーガーにとっても「いつだって、パラリンピックは格別」。他の選手と同様に、いやディフェンディングチャンピオンとしてそれ以上に大きな何かと戦っていたであろうことは容易に想像できる。
表彰台の真ん中で金色に輝くメダルを手にした時、そしてオランダの国旗がセンターポールに掲げられた時、彼女は大粒の涙をこぼした。
「北京のあと、メンタルを保ち続けるのがとても難しかった。たぶん、今までで1番。四六時中テニスのことを考えていたから、プレッシャーにつぶされそうだった」
最強女王と同国のライバルの対決となった決勝
健闘を称え合うバーガー(左)とファンクート。ライバルの存在がより試合を熱くさせた 【吉村もと/MA SPORTS】
今年3月30日から4月3日にかけて行われたペンサコーラ・オープン(米国)の決勝では、ロンドンの決勝でも対戦したファンクートに1セットを奪われた。結局はしっかり勝利しているのだが、それでもオランダではニュースになったほど。彼女が別格の強さであることを物語っている。
一方、ロンドンで今度こそバーガーに土をつけることができるかと期待されたファンクート。決勝では第1セットこそゲームを奪えなかったが、第2セットで逆襲。前に出てくるバーガーに対して矢のようなクロスのショットを打ち抜いてリズムを得ると、0−4から2ゲームを連取し、第8ゲームも奪った。だが、バーガーは動じなかった。形勢不利な場面でも華麗なチェアーワークでボールに追いつき、一打で波を引き寄せるスーパーショットを連発。しぶとく粘るファンクートを突き放した。
試合後、ファンクートは報道陣にこう話した。
「第1セットは私の望み通りに進まなかったけど、第2セットは少しは不安を抑え込めてうれしかった。まさかエスターが負けるわけないと思っていたでしょ? 銀もいいけど、私はいつの日か金を手に入れる。ハードルを上げて、次回の私の目標は金メダルを取ることよ」
どんなスポーツでも、チャンピオンの陰にはリベンジに燃えるライバルの存在がいるものだ。
子ども対象のテニスクリニックも主催
最終日には、ダブルスの決勝戦に出場するバーガー。金メダルをもう1つ獲得することはできるのか 【吉村もと/MA SPORTS】
彼女自身、8歳で手術を受けた後はひとりでは服も着られず、シャワーも浴びることができないという事実に直面した。それがスポーツを始めると肉体的にだけではなく精神的にも強くなっていった。
「私は、スポーツを始めた時にどんなにうれしかったかを覚えてる。スポーツが子どもたちに新しい道を開き、自信をもたらすということを伝えられたらって思うわ」
現在、31歳。20代のころに焦点を当ててきたラリーなど技術の向上より、戦略的なゲーム展開を身につける練習にスイッチしているという。試合後の記者会見でロンドン後について尋ねられると、「私も長い間、何度もそれを考えてきたけど、継続するか引退するか、正直なところまだ決められない」と明言を避けた。
パラリンピック最終日には、ダブルスの決勝戦に挑む。バーガーは、ダブルスでもシドニー、アテネで優勝、北京で銀メダルを獲得している。そのメダルコレクションに、1番きれいな色のメダルをもう1個加えることができるか。その戦いに注目したい。
<了>
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