求められる日本流の構築 28年ぶりのメダルを「快挙」にしないために=五輪女子バレー総括

田中夕子

“分業制”の次は日本スタイルのバレー構築が求められる

 真鍋監督が就任するまでの長い歴史において、女子のコーチはボールを打つことが仕事で、すべてを統率していたのは監督だった。だが、一人でできることには限りがある。真鍋体制になって以後、コーチ陣もブロック、戦術、ディフェンス、サーブなどカテゴリーごとに担当を分け、分業制を敷いた。選手からすれば、聞きたいことを誰に聞けばいいかが明確になると同時に、結果の出ないポイントを担当するコーチにかかるプレッシャーの度合いもそれまでとは比較にならない。

「このチームで戦えたこと、選手、スタッフ、みんなに感謝したい」

 勝利の後、多くの選手がそう口にした。その影には1本のサーブ、1本のブロックが、どれだけ勝利に貢献するのか、情報収集担当のアナリストも含め、緻密な分析を繰り返すスタッフ陣の姿があった。選手を含め、“チーム”として各々の役割に徹し、積み重ねた努力の結晶が、銅メダルを引き寄せた要因であったのは間違いない。

 とはいえ、ただ勝利をたたえればいいかと言うと、そうとも言い切れない。
 3位決定戦では韓国に勝利し、悲願のメダルを獲得したが、予選リーグではイタリア、ロシアに、そして準決勝ではブラジルに完敗を喫しているのも事実だ。

 勝因にいくつもの理由があるように、敗因にも理由がある。
 勝利すれば「平均身長で劣る日本が拾い勝ち」と称され、敗れれば「平均身長で劣る日本が高さに屈した」と報じられる。しかし平均身長で劣る以上、そのマイナスをどう補うかは、日本にとって避けられぬ課題でもあるのは明白だ。
 
 マイナスをプラスに変えるポイントとして掲げられたのが「スピード」だったのだが、トスの速さばかりが強調される「スピード」バレーでは、アタッカーがトスに合わせて突っ込む形となり、特に予選のイタリア、ロシア戦では木村や江畑が最高到達点でスパイクを打ち切れず、みすみす相手に得点を与えてしまう場面が目立った。

 さらにブラジル戦では、竹下がレシーブをした後にリベロの佐野優子(イトゥサチ/アゼルバイジャン)がアンダーハンドでボールを処理する際、佐野の構えた位置からトスの上がる場所を予測した相手ブロッカーが、2枚、3枚と待ち構えた状況で攻撃せざるを得なかった。結果、そのブロックに捕まり連続失点を喫するケースも1度や2度ではなかった。

 たとえば優勝したブラジルのように、スピードを武器とするバレーを目指すのであれば、個が目立つのではなく、誰でも同じようにトスが上げられ、同じスピードでスパイクが打てる選手がそろった上で、チームとしてのスタイルが構築されなければならない。

個に頼らない確固たる日本スタイル構築へ次世代育成がカギ

 どんなトス、状況に対しても「自分が何とかすればいい」と言い切れる、非凡なテクニックを持つ木村のような稀有な存在がいるのは、確かに頼もしい。しかし、いつまでも個に頼っていては「エース依存」から抜け出すことはできない。

 さらに、個が目立つ状況が続けばそれだけ批判の矛先も個に向けられる。サーブレシーブやスパイクで木村が、トスで竹下が、二段トスで佐野が批判されることも、本人たちは自身の責任として受け止めているが、客観的に見ればお門違いも甚だしい。個が目立つ状況になってしまっていることにこそ、目を向けなければならないはずだ。

 真の意味での日本スタイルを構築するためには、ユース年代、ジュニア年代から一貫した指導体制が敷かれ、選手育成、強化も含めた環境づくりが為されなければならない。欧州勢は、ただ身長が高いだけでなく、ボールコントロールにも優れた若年層の選手がそろっている。代表の世代交代も含め、日本も一刻も早く次世代の育成、強化に着手しなければ、その差は、追いつくどころか広がっていくばかりだろう。

 これからに、つなげていくために。この素晴らしい銅メダルを、ただの快挙で終わらせぬためにも。確固たる日本スタイル構築に向け、今だからこそ為されるべきこと、為すべきことがあるはずだ。

<了>

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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