五輪の判定に韓国も大騒ぎ 過熱する感情に冷静な声も

キム・ミョンウ

フェンシングでは「魔の1秒」、イメージを心配する声も

「魔の1秒」で敗れたフェンシングのシン・アラム 【Getty Images】

 そしてもう一つ、大きく取り上げられたのがフェンシングだ。韓国フェンシングは、史上最多となる金2、銀1、銅3のメダルを獲得し、各紙は集中的な取材で「強さの秘密」を掘り下げていた。
 しかし、一方でフェンシング女子エペ個人の準決勝で起きた「魔の1秒」の判定に対する報道の数もすさまじいものだった。

 ドイツのブリッタ・ハイデマンと対戦した韓国のシン・アラムは最後の1秒で決勝点を取られて敗退。だが、この1秒の間にハイデマンが3度も攻撃していることから、「時間測定の方法がおかしい」と韓国側が猛抗議。判定を不服としたシンは1時間にわたって座り込みし、泣きながら抗議をしていた姿をニュースで見たという人も多いだろう。
 彼女の訴えは届かず、そのショックが大きかったのか、3位決定戦でも敗れて個人メダルを逃した。

 なにもメディアが過敏に反応したのは判定の件だけではない。実は国際フェンシング連盟(FIE)が贈ることにしたという「特別賞」をシンが拒否したという報道もあったが、それが事実か定かでなく、韓国では二転三転と情報が錯そうしている。
 また、大韓体育会が国際オリンピック委員会(IOC)に対し、共同銀メダルの授与を検討するよう要請したが、IOCがこれを拒否したというニュースも瞬く間に世界を駆け巡った。

 韓国の有力紙記者が言う。
「五輪のような国際大会で、敗者に対して共同で銀メダルを授与することなど到底ありえません。私も悔しい気持ちがあるのはもちろんですが、韓国側が先走り、あまりに感情的になりすぎた部分もあったと思います。当時、こうした動きをコーチは報道で知ったと言っていますから……。もう少し冷静な判断のもと、迅速に対応する方法を取るべきだったと思います」

 また、有力紙スポーツ紙記者は開口一番、「心配事が一つある」と言う。
「今回、韓国はメダル獲得数こそ多いですが、一方で、国際的なイメージがどうなのか心配です。ロンドン五輪の韓国は“判定問題”でにぎわせたなんて言う人がいるかもしれない。もちろん、あからさまに不可解な判定なら抗議する余地はありますが、過度な訴えは時にスポーツマンらしくないという印象も与えてしまう。潔さもアスリートに必要なのかもしれません。ただ、忘れてならないのは選手に責任があるわけではない。各競技の審判のレベル向上、ルールの見直しなど、検証する部分がたくさんあるのは確かでしょう」

バドミントンの「無気力試合」には大批判

 最後は、バドミントンに関する報道が過熱した件だ。韓国ではバドミントンはいわゆる“お家芸”で、正式種目となった1992年バルセロナ五輪からメダルを獲得してきた種目。今大会も期待値は高かったが、男子ダブルスの銅メダルをとるのがやっとだった。

 金メダルへの期待もむなしく、話題になったのは女子ダブルス1次リーグに出場した韓国選手2組(チョン・ギョンウン、キム・ハナのペア、ハ・ジョンウン、キム・ミンジョンのペア)が「無気力試合」で失格になったこと。中国とインドネシア各1組の選手も失格処分を受けたが、韓国2組の処分は、国内でショッキングなニュースとして扱われた。
 この件ばかりは国内メディアも擁護するそぶりもなく、『中央日報』は「バドミントン無気力試合で非難……オリンピック精神に泥、国の恥さらし」という見出しをつけるなど、ほとんどのメディアが批判を浴びせていた。

 さらに一般人のツイッターも過激なものだった。
「4年も努力しながら、あえて負ける選手がどこにいる? 同じ国民として恥ずかしい」「失格は当然の処分」「彼女たちの目標は優勝のはず。しかし、過程を無視した結果は罪でしかない」

 また、6日付の『中央日報』は「バトミントン無気力試合、選手だけの責任か」と題したコラムを掲載。執筆したキム・シク記者は「今回の選手の責任だけではありません。指示したのは監督なのか、協会なのか。実際に責任を負うべき人が誰なのかをはっきりさせる必要があります」と意見を述べていた。

 そんな中で6日、第95回ラジオ・インターネット演説に臨んだのが李明博大統領。五輪に出場する選手たちの活躍について触れ、それぞれに激励の言葉を送っていた。

 その話の中に印象に残ったフレーズがあった。
「柔道のチョ・ジュンホ選手は金メダルよりも価値のある勝利を手にいれました。判定は審判が判断することなので従うしかありませんが、個人的にはあの判定は受け入れられません……」

 李大統領はそう言い切った。国を代表して戦う選手たちに向けて、明確な自分の意見と立場を伝えたかったのかもしれない。とはいえ、もうこれ以上、掘り返しても結果は覆らない。
 残りの期間、ラストスパートに全力を注ぐことが先決。周囲の声にまどわされず、しっかりと有終の美を飾ってもらいたいものだ。

<了>

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著者プロフィール

1977年、大阪府生まれの在日コリアン3世。フリーライター。朝鮮大学校外国語学部卒。朝鮮新報社記者時代に幅広い分野のスポーツ取材をこなす。その後、ライターとして活動を開始し、主に韓国、北朝鮮のサッカー、コリアン選手らを取材。南アフリカW杯前には平壌に入り、代表チームや関係者らを取材した。2011年からゴルフ取材も開始。イ・ボミら韓国人選手と親交があり、韓国ゴルフ事情に精通している。

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