五輪の判定に韓国も大騒ぎ 過熱する感情に冷静な声も

キム・ミョンウ

柔道男子66キロ級準々決勝では判定が覆り、韓国選手が敗れた 【写真:ロイター/アフロ】

 いよいよ佳境を迎えつつあるロンドン五輪。日本では連日、五輪報道が新聞やテレビ、インターネットなどをにぎわせているが、お隣の国・韓国もその熱気は同様だ。

 8月6日時点(現地時間)で韓国は金11、銀5、銅6と国別メダル順位で1位の中国、2位の米国、3位の英国に次いで4位につけているのだから、国民の期待と注目度は高まる一方だ。

 韓国を訪れた5日、ホテルに到着してテレビをつけてみると、どの局もトップニュースは、大会ホスト国の英国を破ってベスト4に進出した男子サッカーだった。多くのメディアが「2002年(日韓W杯)の再現」と表現した。その背景には、02年W杯ベスト4入りを果たしたメンバーだったホン・ミョンボ監督が指揮をとっていることも関連しているが、次のブラジル戦は今以上に大きな注目を浴びるのは間違いない。

 だが、一方で未だに尾を引いているニュースがある。それが“判定”を取り巻く問題だ。韓国メディアは五輪序盤の“最大イシュー”として、競泳、柔道、フェンシングなど判定に泣かされた試合を様々な角度から取り上げていた。

フライングの判断が精神的に影響? パクはいたって冷静

 事の始まりは、08年北京五輪競泳男子400メートル自由形で金メダルを獲得したパク・テファンだった。

 今大会で同種目予選3組に出場したパクは、一度はフライングと判断されて失格となったが、韓国が国際水泳連盟に異議を申し立てた結果、同水連はこの主張を認めた。決勝レースに出場したパクは最終的に銀メダルを獲得。同種目で2連覇とはならなかったものの、各メディアは連続メダル獲得を高く評価している。

 ただ、一方で「一度、失格と判断されたことが精神的に響き、金メダル獲得を逃した」と書くメディアやこれと似たような意見をユーザーがネット上に書きこんだり、「どうしても判定に納得がいかない」といった意見が見受けられた。

 しかし、パクはいたって冷静だった。200メートル自由形でも銀メダルを獲得した彼は、すべての競技を終えた後、会見でこう語っていた。
「正直、金メダルを獲れなかったこと、世界記録を出せなかったことは残念ですが、最後まで全力を尽くして試合に臨めたことに対しては満足しています。今でも北京五輪が最高の思い出ですが、今回もメダルを獲れたことで意義深い大会になりました」
 パクは判定を不服とせず、最後まで戦い抜き、すがすがしい表情を見せていたが、マスコミや国民の気持ちは「失格の判定さえなければ金メダルは取れたはず」というのが本音のようだ。

柔道の判定覆りに過熱する国民感情

 このパク・テファン騒動のあと、韓国メディアがかみついたのが、日本でも大きく取り上げられた男子柔道の前代未聞の判定だ。

 男子66キロ級準々決勝の海老沼匡(パーク24)とチョ・ジュンホの試合で、一度は3−0の旗判定でチョの優勢となったが、ジュリー(審判委員)が変更を要求。その後、一転して海老沼に旗が3本上がり、結果が覆ってしまった。

 これに韓国メディアが黙っているはずがなかった。

「誤審パレード」、「(パク・テファンに続き)誤審の犠牲になった」、「バカな審判たち」などと、単語や見出しを並べ、連日、批判を繰り返した。
 さらに試合後、海老沼が「『チョ・ジュンホが勝ったと思う。判定が覆ったのは間違い』と語り、敗北を認めた」と書くメディアもあったほど。ちなみに、海老沼が本当にこういう発言をしたのかは定かでない。最終的に2人は銅メダルで大会を終えたが、これで“イーブン”とはいかないのが韓国の国民感情だ。

 そうした国民の気持ちを察してか、大韓柔道会のムン・ウォンベ審判委員長が今回の判定についての見解を公式会見で説明している。
 結論から言えば「判定には何も問題がなかった」ということだ。

「柔道のルールに関して国民はまだよく分かっていない部分があります。例えば有効を10とったとしても、技あり1つには及びません。全体的な試合の流れでチョ・ジュンホが優勢に見えたとしても、有効に近いポイントを海老沼が取っていれば優勢になる。そこがもっとも重要です。今回はそれを3人の審判が認識できていなかったのが問題。判定が覆ったことは少し驚きましたが、実はそれも問題はありませんでした。アテネ五輪以前は、判定を覆すルールはなかったのですが、アテネ大会以降はビデオ判定などで、試合後に判断して変えることも可能。多くの国民がこの部分を理解してくれればと思います」

 スポーツマンシップに乗っ取ったクリーンな発言で、韓国の世論を落ち着かせたかったのだろう。その背景には報道が過熱するのを防ぎ、選手たちに害が及ばないようにする対応にも見て取れたが、いずれにせよ、一番の被害者は選手たち。こういったことが起きないよう今回の一件を教訓にすべきなのは言うまでもない。

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著者プロフィール

1977年、大阪府生まれの在日コリアン3世。フリーライター。朝鮮大学校外国語学部卒。朝鮮新報社記者時代に幅広い分野のスポーツ取材をこなす。その後、ライターとして活動を開始し、主に韓国、北朝鮮のサッカー、コリアン選手らを取材。南アフリカW杯前には平壌に入り、代表チームや関係者らを取材した。2011年からゴルフ取材も開始。イ・ボミら韓国人選手と親交があり、韓国ゴルフ事情に精通している。

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