日本の守備はなぜ安定したのか=U−23日本代表 1−0 U−23モロッコ代表

大住良之

OA吉田、徳永の光る存在感

吉田(右)はこの2試合で成長を見せ、徳永も堅固な守備と粘りで存在感を見せている 【写真:アフロ】

 スペイン、モロッコと対戦して失点0。2試合が終わって失点なしは、今大会出場16チーム中、日本とメキシコの2チームだけである。その守備が、2連勝、そして2000年シドニー大会以来12年ぶりの準々決勝進出をもたらした。

 スペインは圧倒的な個人技とパスワークを持っている。モロッコはスピードがあり、サイドを破られると厄介だ。そしてホンジュラスは、えたいの知れない型破りな攻撃力を持っている。この3チームと対戦するにあたって、関塚隆監督は何よりも守備の強化を考えたはずだ。

 5月に行われたトゥーロン国際では、左サイドを崩され、リスタートからあっさりと失点して1勝2敗の不成績に終わった。
 現在のU−23日本代表は、ヨーロッパのクラブで活躍する選手が何人もいるだけでなく、すでにA代表入りしている選手もいるなど、タレントがそろう攻撃陣と比べると、守備陣はJリーグで試合に出ていない選手も使わざるをえない状況で、予選時からの不安材料だった。そこで、ディフェンスラインに「オーバーエイジ」(OA)で徳永悠平(FC東京)と吉田麻也(VVV)を使う決断をしたのだ。

 今大会の2試合で、この2人の存在感は大きく光っている。

 189センチの長身で「高さ」をもたらすことを期待された吉田は、ゴール前で「壁」になるだけでなく、落ち着いた守備を見せ、この2試合で大きく成長した。危ないと思ったときに最後に相手に食らいついているのが吉田だったという場面は、この2試合のなかで何回も見た。

 常にA代表入りしているわけではない徳永の選出には疑問の声も聞かれたが、左サイドバックとして堅固な守備と粘りを見せている。数は多くはないが、攻め上がりでも力を発揮している。

力を伸ばす鈴木、相手を消極的にさせた酒井高

 もしかすると、徳永の活躍を一番喜んでいるのは日本代表のアルベルト・ザッケローニ監督かもしれない。スペイン戦に続いてモロッコ戦もスタンドで観戦したザッケローニだが、内田篤人(シャルケ04)、長友佑都(インテル)、駒野友一(ジュビロ磐田)、そしてU−23の酒井宏樹(ハノーファー)といった日本代表のサイドバック陣の一角に徳永を加えられると判断したとしても不思議ではない。

 このOAの2人に触発されるように、センターバックの鈴木大輔(アルビレックス新潟)も、モロッコ戦で右サイドバックとして初先発した酒井高徳(シュツットガルト)も、非常にハイレベルなプレーを見せた(スペイン戦で先発、負傷交代を余儀なくされた右サイドバック酒井宏の実力はすでに折り紙つきだ)。

 鈴木は試合ごとに力を伸ばしている。相手に対する強さだけでなく、ボールを持ったときの落ち着きぶりは、数カ月前とは別人のように見える。

 モロッコの左MFラビアドは、スピードとテクニック、シュート力を併せ持ち、最も警戒すべき選手だった。だが前半の早い時間帯に左タッチライン沿いで鋭いパスを受けて抜け出したかと思われたときに酒井高が背後から猛烈に追い、追いついてしまった。以後は「この相手には勝てない」と思ったのか、ラビアドはプレーが消極的になった。もしかすると、この試合の行方を左右した重要なシーンだったかもしれない。

 GKの権田修一(FC東京)、ボランチの山口螢と扇原貴宏(ともにセレッソ大阪)を含めた守備陣の粘りと集中は素晴らしいものだった。しかし、それだけでは関塚監督の目指す「守備」の4分の1にしかならない。

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著者プロフィール

サッカージャーナリスト。1951年7月17日神奈川県生まれ。一橋大学在学中にベースボール・マガジン社「サッカーマガジン」の編集に携わり、1974年に同社入社。1978年〜1982年まで編集長を務め、同年(株)ベースボール・マガジン社を退社。(株)アンサーを経て1988年にフリーランスとなる。1974年からFIFAワールドカップを取材。1998年にアジアサッカー連盟「フットボール・ライター・オブ・ザ・イヤー」を受賞。 執筆活動と並行して財団法人日本サッカー協会 施設委員、広報委員、女子委員、審判委員、Jリーグ 技術委員などへの有識者としての参加、またアドバイザー、スーパーバイザーなどを務め、日本サッカーに貢献。また、女子サッカーチーム「FC PAF」の監督として、サッカーの普及・育成もつとめる。 『サッカーへの招待』(岩波新書)、『ワールドカップの世界地図』(PHP新書)など著書多数。 Jリーグ開幕年の1993年から東京新聞にてコラム『サッカーの話をしよう』がスタートし、現在も連載が継続。

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