日本の守備はなぜ安定したのか=U−23日本代表 1−0 U−23モロッコ代表

大住良之

関塚監督の目指す「守備」

清武(17)ら前線の献身的な守備も、日本の守備力をさらに高めている 【Getty Images】

 日本の守備力を決定的に高めたのは、前線の4人、MF清武弘嗣(ニュルンベルク)、MF東慶悟(大宮アルディージャ)、FW大津祐樹(メンヘングラッドバッハ)、そしてFW永井謙佑(名古屋グランパス)の献身的な守備だった。ボールを奪われると間髪を入れずに守備に入り、4人が連係して動く。その組織力は、スペイン戦でもモロッコ戦でも「圧巻」と言ってよかった。

 前線が効果的に追ってくれれば、ボランチやディフェンスラインの選手たちは狙いどころを絞れるようになる。そして中盤でタイミングよくインターセプトできれば、それは即チャンスにつながる。

 こうしたチーム一体となっての守備を90分間途切れることなく続けたから、2試合で失点ゼロという成果が出た。しかしまだ「4分の1」足す「4分の1」で「2分の1」でしかない。関塚監督の目指す「守備」の残りの半分は、相手ではなく日本がボールを保持しているときに関わっている。

 ボールを奪ってからの安定したパス回し、すなわち「ボールポゼッション」がしっかりとしてきたから、すなわちきちんと攻撃できているから、守備だけに奔走するような試合にならず、相手を一度、相手陣に押し戻してから次の守備ができるという形ができた。

 ディフェンスラインの4人に両ボランチを加えてのボール回しは、この2試合で非常に安定し、大幅にミスが減った。五輪に入ってからの2試合では、ボランチの山口と扇原がパスを受ける回数が非常に増えているが、この2人が絡むことで相手の守備にギャップが生まれ、次の「打開」につながっていく。

 パスが回り始めると、日本の選手たちはディフェンスラインに2人か3人残すだけで、ポジションに関係なくどんどん追い越していく。リスクを冒しているようにも見えるが、人数をかけてボールを持っている選手に近寄ったりまた離れたりする動きを繰り返すなかでスペースを作り、それを使うことを通じてパスの成功率が上がっているように感じられる。

 攻撃に移ったときに簡単にボールを失うといったことが減り、しっかりとパスが回るようになった。それこそ、関塚監督が目指す「守備」の残りの半分なのだ。

プラン通りの結果を自信に

 関塚監督は、こうして失点の可能性をできる限り小さくすることを、今大会の戦い方の基本にしているように見える。スペイン戦、モロッコ戦は、まさにそうした戦いが実を結んだものだった。

 相手に押し込まれ、ゴールに迫られて苦しい場面があっても、そこは粘り強くついていき、体を張って守る。そうして守っているうちにワンチャンスをものにすれば、勝つ可能性は高くなる。

 ロンドン五輪のこれまでの2試合は、そうした試合だった。関塚監督のプラン通りに、あるいはプラン以上に選手たちが奮闘した結果だった。いずれの試合も、2点目、3点目を取る可能性は十分にありながら「日本病」とも言うべき決定力不足が出てきん差の勝利となったが、監督のプランをしっかりと実行でき、しかも勝利につながったことは、選手たちの大きな自信になったに違いない。

 その自信を、準々決勝の勝利に結びつけてほしいと思う。

<了>

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著者プロフィール

サッカージャーナリスト。1951年7月17日神奈川県生まれ。一橋大学在学中にベースボール・マガジン社「サッカーマガジン」の編集に携わり、1974年に同社入社。1978年〜1982年まで編集長を務め、同年(株)ベースボール・マガジン社を退社。(株)アンサーを経て1988年にフリーランスとなる。1974年からFIFAワールドカップを取材。1998年にアジアサッカー連盟「フットボール・ライター・オブ・ザ・イヤー」を受賞。 執筆活動と並行して財団法人日本サッカー協会 施設委員、広報委員、女子委員、審判委員、Jリーグ 技術委員などへの有識者としての参加、またアドバイザー、スーパーバイザーなどを務め、日本サッカーに貢献。また、女子サッカーチーム「FC PAF」の監督として、サッカーの普及・育成もつとめる。 『サッカーへの招待』(岩波新書)、『ワールドカップの世界地図』(PHP新書)など著書多数。 Jリーグ開幕年の1993年から東京新聞にてコラム『サッカーの話をしよう』がスタートし、現在も連載が継続。

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