高まる期待と裏腹に冷静な市民? 開幕1週間前の英国・ロンドンは今
国を挙げた強化策が実りつつある英国
シドニーはキューバ代表、アテネ(写真)、北京にはスーダン代表として出場し、今回は英国代表として出場するアルダマ 【Getty Images】
金メダルわずか1個に終わったアトランタ五輪以来、英国は大会ごとに着実にメダル数を増加させ、08年の北京五輪では11競技から47個(うち金メダルは19個)を獲得。国別争いでは4位、英国史上では歴代2位の好成績を収めた。
そして今回のロンドン五輪におけるメダル獲得の目標数については、英国のトップ選手たちの強化を担う機関であるUKスポーツが「最低でも40個、最高で70個」と述べている。ロバートソン五輪相は、「もし目標を達成できないのならばそれなりの説明を要する」。まさに国を挙げての大事業である。
多数の応援が集まるといった開催国として当然の地の利に加えて、英国人選手の活躍が期待される理由の一つに、英国が過去数年間に注ぎ込んできた潤沢な資金がある。その根幹を成す仕組みが、先述のUKスポーツだ。
惨敗を喫したアトランタ五輪の翌年、97年に設立されたこの政府機関は、税金と国営宝くじの収益金、そして民間の寄付金を資金源として、英国のトップアスリートのみを対象に強化費を提供している。
ロンドン五輪開催に合わせて捻出された09年から13年にかけての強化費は、3億1000万ポンド(約380億円)。これは北京五輪より4500万ポンド(約55億円)もの増額となる。
その内訳をみると、2729万ポンド(約33億6400万円)が割り当てられたボートを筆頭に、自転車、陸上、競泳、セーリングへ数十億円単位の強化費が注がれている。
各競技への分配額の大きさはロンドン五輪での成果への期待値とほぼ比例しており、北京五輪で金メダル3個のクリス・ホイの活躍などにより金8個を獲得した自転車競技や800メートル自由形でレベッカ・アドリントンが世界記録を樹立した水泳などは、今大会でも英国のメダル獲得が確実視される競技だ。
1割の帰化選手という存在
実は今回のロンドン五輪に参加を予定している542人の英国代表選手のうち、11パーセントに相当する60名がいわゆる帰化選手なのだ。幼い頃に移住したり、亡命したりといった理解を得やすいものだけでなく、中には極端な事例もある。
例えば、三段跳びのヤミレ・アルダマは、シドニー五輪をキューバ代表、アテネ五輪と北京五輪をスーダン代表として参加した後で、今回のロンドン五輪では英国代表として選出されている。
またナイジェリア人の父と英国人の母の間に生まれた女子100メートルハードルのティファニー・ポーターは、北京五輪では米国代表として臨んだ五輪選考会で落選し、英国代表として今回が五輪初参戦。英国籍を保持しているが、英国に定住したことは一度もない。ウクライナ生まれの女子レスリングのオルガ・バッコビッチに至っては、英国のパスポートを取得したのが今年の5月だ。まさに「駆け込み帰化」である。