錦織だけじゃない! 男子テニス界に「厚み」を与えた添田と伊藤がロンドン五輪へ挑む

内田暁

テニス界の“坂本龍馬”を目指す伊藤竜馬

全仏1回戦ではアンディ・マレーを苦しめた伊藤竜馬。五輪でも大物食いなるか!?  【Getty Images】

 添田が一歩ずつ踏みしめながら道を歩む求道者なら、伊藤は一発の大きな武器を引っさげて、革新の大望を抱く維新の志士と言ったところだろうか。
 
 三重県いなべ市出身の24歳。オリンピックイヤーに歳男となる辰年生まれの伊藤は、幕末の志士・坂本龍馬にあやかり「タツマ」の名を父親から与えられた。「坂本龍馬はお姉さんが3人いる末っ子。僕も姉2人の末っ子なので、そこらへんも一緒なんです」と屈託なく笑う平成の竜馬は、「坂本龍馬のように、コート上では勇敢に、コートの外では優しくありたい」と、自身が目指す明確な“龍馬像”を持っている。
 
 181センチ、75キロの日本人としては恵まれた体格を持つ伊藤は、10代の頃から周囲の期待を集めながらも、ここ一番で気の弱さが露呈しなかなか、殻を破れずにいた。それが10年8月にチャレンジャー(ATPツアーの下部大会)で初優勝した頃から、実績が潜在能力を引き出し、一気に“化ける”。

無邪気な勝負師は大舞台で大物食いを狙う

 そんな伊藤の最大の魅力にして最強の武器は、フラット系の強打に代表される攻撃力だ。特に、高めの打点から打ち込む破壊力抜群のフォアは、誰が相手だろうとウイナーを奪える威力を誇る。
 
 今年5月の全仏オープン1回戦では、世界4位のアンディ・マレー(英国)相手に豪快なウイナーを次々と叩きこみ、敗れたものの1万人の観衆から特大の“イトーコール”を贈られた。何か大仕事をやらかしそうなスケール感を、テニス界の竜馬は秘めている。
 
 本人も、そのような自分の長所と、いい意味で目立ちたがり屋な性格を自覚している。「コツコツやるのは性格的に苦手な方なので、やはり大物食いを目指したいですね。僕のテニスならそれが可能だと思います」
 
 そう言うと伊藤は「楽しいですよ! 今はツアーを回っていても、自分より上の選手しかいないじゃないですか。僕は当たって砕けろだし、相手はビビる。大物食いしかない状況ですから」と、無邪気さと勝負師の大胆さが同居する笑顔を見せた。

 添田豪と伊藤竜馬――初の五輪出場に至る足跡や性格も大きく異なる二人だが、その両者に共通する、絶対的な思いがある。

「国民の誰もが知っている大会に出られることを誇りに思う。選ばれし戦士として、一つでも多く勝っていきたいです」(伊藤)
「出るからにはしっかり調整し、ベストを尽くして一つでも上をめざしたいです」(添田)

 発する言葉こそ、両者の人間性を反映し異なる形となって現れる。だがその源泉にあるものとは、日本を代表することへの誇り、そして日の丸を背負う責任感だ。

<了>

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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