ドイツの効率に屈したポルトガル=ドイツ 1−0 ポルトガル

市之瀬敦

恐怖心を抱いていた開幕戦

ドイツ守備陣の厳しいマークに遭ったC・ロナウド(中央)。調子は決して悪くなかったが、最後までゴールは遠かった 【Getty Images】

 ユーロ(欧州選手権)2012の「死の組」と称されるグループBの戦いが始まった。デンマークがオランダを1対0で破るという第1試合の番狂わせに続き、第2試合でも大方の予想を裏切る結果があり得るかとも思われたが、やはりドイツはやるべきことをきちんとこなすチーム。タレント集団ポルトガルといえども、ドイツ有利という前評判を覆すことはできなかった。

 今年に入ってから3度の国際試合を戦い、ポルトガルの戦績は2分け1敗といいところがなかった。3試合で1得点という相変わらずの決定力不足を露呈し、しかもユーロ直前の今月2日にリスボンで行われたトルコ戦では1対3と完敗を喫し、ポルトガル代表は不安と不信に包まれたまま、ユーロの“開幕戦”を迎えたのだった。

 主将クリスティアーノ・ロナウドは「ポルトガルの潜在能力を信じる」と述べ、不安や不信の念をかき消そうとしたが、いざふたを開けてみれば、90分間を通し、ポルトガルは強敵ドイツを相手に恐怖を感じ続け、受け身に立ってプレーすることが多かった。

 ポルトガルのパウロ・ベント監督は、ほぼ予想されたとおりの11人を4−3−3のシステムで並べた。GKにルイ・パトリシオ、DFはジョアン・ペレイラ、ぺぺ、ブルーノ・アウベス、ファビオ・コエントラン、MFはジョアン・モウチーニョ、ミゲル・ベローゾ、ラウル・メイレレス、そしてFWはナニ、エルデル・ポスティガ、C・ロナウドであった。

絶好機もシュートはバーをたたく

 試合の入りは互角だった。開始直後の2分、ジェローム・ボアテングのクロスからマリオ・ゴメスのヘディングシュートがいきなりポルトガルのゴールを脅かすも、パトリシオがしっかりとキャッチする。一方、ポルトガルもすぐにコエントランの突破からCKを得るも、ドイツのGKマヌエル・ノイアーにはじき返された。その後はドイツが支配する時間が続き、10分にはトーマス・ミュラーのパスを受けたルーカス・ポドルスキーに左足で危険なシュートを打たれたが、パトリシオがなんとかセーブし、事なきを得た。

 この試合、C・ロナウドが初めて魅せたのは18分。ドイツの右サイドバック、ボアテングとの1対1をドリブルでかわし、ゴール前にクロス。だが、ただ1人走り込んだポスティガには合わず、こぼれたボールはフィリップ・ラームにクリアされてしまった。野心を欠いたポルトガル攻撃陣の中でC・ロナウドが空回りしてしまう典型的な場面であった。C・ロナウドは26分にも左サイドからシュートを試みたが、ドイツ人選手の厳しいマークに遭い、ノイアーの脅威にはならなかった。

 その後、ドイツのプレッシャーを受け、ポルトガルは引き気味で試合を進めるはめになったが、前半最大のチャンスは逆にポルトガルにめぐってきた。終了間際の44分、J・ペレイラが得たコーナーキックのこぼれ球をペペが正確にコントロールし、ゴール左上隅に狙い澄ましたシュートを放った。ラームの頭上を越え、得点かと思われたが、ボールはバーをたたいてゴールライン上に落ち、そのままクリアされてしまった。ぺぺのあのシュートが決まっていれば、全く別な試合になっていたに違いない。

勝ち点ゼロは妥当な結果

 後半に入っても、ドイツが押し込んだ。ときどきナニやC・ロナウドがサイドをえぐって、ドイツ守備陣を脅かしても、ゲームの流れをコントロールしているのはドイツであった。そんな中、65分、ポルトガルが決定的なチャンスを迎えた。モウチーニョがドイツDFの背後に送ったパスをC・ロナウドが受け、あとはシュートを決めるだけと思われた。しかし、その瞬間、ボアテングが戻り、かろうじてコーナーキックに逃げたのである。C・ロナウドとしては、悔やまれる逸機であった。

 70分、ゲームから消えていたポスティガに代わり、期待の若手FWネルソン・オリベイラが投入される。昨年のU―20ワールドカップ(W杯)で大活躍し、一躍脚光を浴びた選手である。スタンドの一角を占めたポルトガル・サポーターががぜん盛り上がったのもつかの間、ゴールを決めたのはドイツであった。

 73分、右サイドでサミ・ケディラがクロスを上げると、ゴール前で待っていたゴメスが巧みにぺぺのマークを外し、パトリシオの手が届かない位置にヘディングシュート。ドイツに待望の得点が生まれた。ポルトガルにとって不運だったのは、ケディラのクロスがポルトガル人選手の体に当たり、ボールの軌道が微妙に変わっていたことだろう。

 ベント監督はMFメイレレスを下げ、FCポルトのアタッカー、シルベストレ・バレラを投入。同点に追いつくことを目指した。監督の積極的な姿勢の効果か、その1分後、早速C・ロナウドが右足で強烈なシューを放つが、ノイアーが必死のディフェンスを見せ、コーナーに逃れた。この試合、最もC・ロナウドらしさが見えた場面だったかもしれない。

 勇敢になったというよりは、捨て身になったポルトガルはさらに攻め続け、84分にはナニのクロス気味のボールがバーをたたき、意表を突かれたノイアーをひやりとさせた。さらに3分後、ポルトガルに最後のチャンスが訪れる。エリア内で巧みにボールをコントロールしたオリベイラがゴール前にパスを送った。ボールはドイツ守備陣の間をスルスルと抜け、フリーで待っていたバレラの前まで達した。しかし、バレラはノイアーの正面にシュートしてしまい、ポルトガルが同点に追いつく最大のチャンスは消えてしまったのである。

 確かに、1点リードされてからのポルトガルの猛攻には目を見張らせるものがあった。運が良ければ同点に追いつき、あるいは逆転することだって可能だっただろう。しかし、試合全体を振り返れば、目についたのはポルトガルの臆病な姿勢。勝ち点ゼロという厳しい結果も妥当なものだったのかもしれない。

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著者プロフィール

1961年、埼玉県生まれ。上智大学外国語学部ポルトガル語学科教授。『ダイヤモンド・サッカー』によって洗礼を受けた後、留学先で出会った、美しいけれど、どこか悲しいポルトガル・サッカーの虜となる。好きなチームはベンフィカ・リスボン、リバプール、浦和レッズなど。なぜか赤いユニホームを着るクラブが多い。サッカー関連の代表著書に『ポルトガル・サッカー物語』(社会評論社)。『砂糖をまぶしたパス ポルトガル語のフットボール』。『ポルトガル語のしくみ』(同)。近著に『ポルトガル 革命のコントラスト カーネーションとサラザール』(ぎょうせい)

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