繰り返された八百長スキャンダル=カルチョに待ち受ける厳しい未来

ホンマヨシカ

ドニやシニョーリといった有名人の名前も

八百長スキャンダルがユーロを控えるイタリア代表に与える影響は大きい。プランデッリ監督(写真)も気が気ではないはずだ 【Getty Images】

 ポーランドとウクライナで共同開催されるユーロ(欧州選手権)2012が数日後に迫っているが、イタリア代表は心身ともに最悪の状態でスペインとの初戦を迎えようとしている。その原因は守備陣と攻撃陣の質の低下も大きいが、イタリア代表選手も巻き込んでいる八百長スキャンダルが精神的に与えている影響も小さくはないだろう。

 マルチェロ・リッピが率いるイタリア代表が出場した2006年のワールドカップでも、大会前にカルチョ・スキャンダルに見舞われながら優勝を成し遂げたことを例に出して楽観視する声も聞こえるが、あの時は選手自身が不正と直接関わりがあったわけではない。

 しかし、今回は代表メンバー入りが確実視されていたDFのドメニコ・クリーシト(ゼニト)が取り調べの召喚状を受けたことにより代表から外され、同じく嫌疑をかけられているDFのレオナルド・ボヌッチ(ユベントス)は選出されたものの、検察の動き次第ではメンバーから外される可能性も大きい。

 イタリア代表のチェーザレ・プランデッリ監督も毎日気が気ではないだろう。

 さて今回のスキャンダルだが、2011年6月1日に、オーストリアのオンライン・ブックメーカーからの情報(賭けに関する不自然な掛け金の動き)を受けたクレモナ市の検察が捜査を始めたのが発端で、捜査線上に当時アタランタのキャプテンだったクリスティアーノ・ドニやジュゼッペ・シニョーリ、ステーファノ・ベッタリーニのような有名人の名前も挙がり、国民を驚かせた。

 そしてその後に次々と選手や関係者から逮捕者が出て、八百長の疑いを持たれている試合(セリエA、セリエB、アマチュアリーグの試合からフットサルまで含む)が多く明るみに出たのだ。

 今年の4月2日にはバーリ市の検察がアンドレア・マジエッロ(元バーリの選手で直前にアタランタへ移籍)を逮捕した。同じ時期にシニョーリ、そして彼と関係があるボローニャの八百長賭博グループのメンバーなどが逮捕されている。

 5月28日にはラツィオ副キャプテンのステファノ・マウリとパドバの選手で昨シーズンまでジェノアの中心選手だったオマール・ミラネットが逮捕、そしてユベントスの監督であるアントニオ・コンテ(昨シーズンまでシエナの監督)も家宅捜索を受けたことが、ファンや関係者を驚かせた。

 コンテに対する疑惑だが、元シエナのMFフィリッポ・カロッビオに対する取り調べで「コンテに引き分けもしくはある点数以上による引き分けを行う話を持ちかけたが拒否された。コンテは八百長の動きを知っていた」と供述したことによる。

 ただし、カロッビオは最初の取調べではコンテの名前を出していなかった。問題の試合は2011年5月1日に行われたセリエBのシエナvs.ノバラ(2−2)だ。セリエA昇格を目の前にしていた両チームにとって、引き分けは都合の良い結果だった。

クリーシトは八百長のことを知らない可能性も高い

 イタリア代表候補として合宿中だったクリーシトとボヌッチについてだが、クレモナ市検察が捜査を担当している前者は、取り調べの召喚状が出されたため代表候補から除外された。後者については、ユベントスに移籍する前に所属していたバーリに関する捜査がバーリ市検察の管轄であり、ボヌッチに対してはまだ召喚状が出ていないため、現在まで代表に留まっている。

 今回の両選手の嫌疑について説明すると、まずクリーシトだが、ジェノアに所属していた2011年5月10日にジェノバ市内のレストランの前で、チームメイトのジュゼッペ・スクッリ、ボスニア人の前科者であるサフェ・アルティッチ、ジェノアのウルトラスのリーダーとジェノアのティフォージ2人、そしてレストランのオーナーらと話し合っているところを写真に撮られたことによる。

 問題となったのは、この写真を撮られたのが、後に八百長疑惑がもたれることになるラツィオvs.ジェノアの前日であったこと、そしてチームメイトのスクッリがヌ・ドランゲタと呼ばれるカラブリア地方の犯罪組織のボスを叔父に持ち、以前から犯罪に関わりのある人物との交友関係を取りざたされていたことだ。スクッリは、同じくこの写真に収まっているボスニア人のアルティッチとも親密な関係にあった。アルティッチはジェノバをテリトリーとする犯罪グループで、高利貸しや非合法賭博に関する取立てを生業(なりわい)としていた人物である。この2人はイタリア代表選手だったルカ・トーニに対して、プライベートな写真を材料に脅迫した疑いも明るみに出ている。

 アルティッチはスクッリ以外にも、ジェノアの選手だったミラネットやカハ・カラーゼとも付き合いがあったと見られており、アルティッチはラツィオvs.ジェノアの前にこの両選手とも会っていたとされる。

 今回の八百長疑惑に対してクリーシトは全くの無関係を主張しているが、この不都合な写真について「サンプドリアとのダービーマッチの後、ファンからプレーに対する非難の声があったし、また何人かのチームメイトがウルトラスと険悪な状態になっていたので、彼らとの話し合いを要請した。そして彼らの指定する場所に行くと、そこにスクッリと会ったことのない人物もいた。僕はファンにこれまで以上に真剣にプレーに取り組むことを約束して、彼らと別れた」と説明している。

 現在クリーシトに対する疑惑はこの時の写真だけであるため、本人は嫌疑をかけられている八百長について本当に知らなかった可能性も高い。

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著者プロフィール

1953年奈良県生まれ。74年に美術勉強のためにイタリアに渡る。現地の美術学校卒業後、ファッション・イラストレーターを経て、フリーの造形作家として活動。サッカーの魅力に憑(つ)かれて44年。そもそも留学の動機は、本場のサッカーを生で観戦するためであった。現在『欧州サッカー批評』(双葉社)にイラスト&コラムを連載中

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