覚醒したファンタジスタ・並里成 スラムダンク奨学生第1期生の現在位置〜完結編〜=bjリーグファイナル

河合麗子

雪辱戦となった浜松との対戦は序盤は劣勢に

浜松・東三河フェニックスとのbjリーグファイナルは奇しくも昨季と同一カードとなった 【(C)AFLO SPORT/bj-league】

 東京・有明コロシアムで始まったファイナルズ、初戦のウエスタン・カンファレンスのファイナルで京都ハンナリーズを下した琉球は5月20日、いよいよ前季覇者、浜松・東三河フェニックス(イースタン・カンファレンス1位)との対決をむかえた。2季連続同一カードとなった一戦は、昨季敗れた琉球にとっては雪辱戦、チームはこの日のためにこの1年を過ごしてきた。

 しかし試合は、前半早々琉球が劣勢に立たされる。
めまぐるしく攻守が移り変り、激しく展開する試合に、エース並里が開始3分足らずで2ファウルをカウントされ、ファウルトラブルでベンチに下がることを余儀なくされてしまった。

 琉球の4点ビハインドでむかえた第2クオーターは、日本人3人の出場が義務付けられるオンザコート2。身長206センチ、日本代表センター太田敦也を擁する浜松を相手にフィジカルで不利に立つ琉球を見ながら、ベンチの並里は何度も出場を懇願した。しかし桶谷大ヘッドコーチ(以下HC)は「ここは我慢だ」と制した。
 チームは並里が抜けた穴を、固いディフェンスでカバー。ベンチメンバーの与那嶺翼、山内盛久がほぼ10分間出場し、この日19個のリバウンドを記録したジェフ・ニュートン(米国)の活躍などで、第2クオーター、浜松の攻撃を6点におさえると、小菅の3点シュートやマクヘンリーのインサイドアタックもさえ、琉球は9点リード(39−30)で試合を折り返した。

 そして後半、第2クオーターでポイントガードを務めていたキャプテン与那嶺がコートに立つ並里にこう告げた。
「ここからはお前のショータイムの時間だ」

ファンタジスタ、最後のショータイム

最後に見せ場を作った並里。bjリーグでの経験を糧にいよいよNBAにチャレンジする 【(C)AFLO SPORT/bj-league】

 ショータイムは、第4クオーターにクライマックスをむかえた。
 
 浜松のPGジャメイン・ディクソン(米国)らの活躍で、開始直後1点差に追い詰められた琉球。なかなか点数が入らない苦しい展開に「ここは自分がいこう」とファンタジスタの感性が動いた。並里はディリオン・スニード(米国)とのピックアンドロールでシュートに成功。流れを引き戻すと、これをきっかけに第4クオーター32得点の猛攻が始まった。
 
 並里はダブルクラッチでゴールを決めれば、浜松の2人を引きつけマクヘンリーのダンクを演出、桶谷HCはこのダンクを見て「泣きそうになった」と試合後感動を語った。
 並里は22分6秒のプレータイムで15得点5アシストを記録、そして彼自身最も納得したのは、ターンオーバーが「0」という結果だった。
 試合後の会見でこの数字に触れると彼は満足そうに大きくうなづいた。
「僕がPGとして一番達成したかった目標です」
 今シーズン苦しみぬいた課題は、最高の舞台で達成された。

 高校やJBLでも優勝経験のある並里だが、今季の優勝は格別なものだと言う。
 今までにない大きなプレッシャーと戦いながら、課題を克服し、有言実行を果たした今シーズンは、NBAを目指すファンタジスタに大きな自信をもたらした。

 実は今季のファイナルズには「スラムダンク」の作者・井上雄彦氏も観戦に訪れていた。京都戦の前に「がんばって、いいプレーを見せてね」と声を掛けられた並里だったが、まだ彼にとって井上氏は「雲の上の存在、オーラがありすぎて、会っても固くなってしまうんです」とのこと。
「でもNBAに入ったら、ちょっとは胸を張って会いにいけると思います!」
18歳で井上氏に夢の入り口を見せてもらった少年は、その4年後、新たな自信を胸に自らの力で夢への扉を開こうとしている。

<了>

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著者プロフィール

熊本県出身、元琉球朝日放送・熊本県民テレビアナウンサー。これまでニュース番組を中心にキャスター・リポーター・ディレクターなどを務め、スポーツ・教育・経済・観光などをテーマに九州・沖縄をフィールドに取材活動を行う。2016年4月の熊本地震では益城町に住む両親が被災した。

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