高校側から見るプレミアリーグの利点と改善点=流通経済大柏高校・本田裕一郎監督インタビュー

元川悦子

移動費は協会が全額負担するべき

昨年度は5位でフィニッシュ。1年を通しての戦いを経験したことで、見えてきた部分が多くあったという 【スポーツナビ】

――それだけ恵まれたJクラブと同じリーグでしのぎを削るのは、お互いを知り合ういい機会ですね。ただ、高校側からプレミアの費用負担を問題視する声が出ています

 これは本当に大きな問題。1年目の昨年は協会負担が7割、各チームが3割になっていたが、今年はもっと厳しくなると聞いています(2012年はチーム最寄駅同士の間を算出経路対象とし、その6割を協会が支払うことになっている)。本来は協会が全額負担するべきでしょう。

 昨年はウチも400〜500万円かかったし、遠隔地の東福岡なんかは600万くらい必要だったと聞いてます。そういう数字が会議の席上でも全く上らなかったのはすごく気になった。年末のプレミア参入戦に出た大津(熊本)の平岡和徳監督なんかは「公立が(プレミアに)上がった場合は到底無理」と話していたし、実際にそういう難しさはあると思いますよ。そういう格差をなくすことから始めないといけない。われわれも「私学だから学校側が出してくれる」と楽観視できる状況では正直ないです。

――3月に行われたプレミアリーグの会議ではそういう議題は出なかったんですか?

 出ませんでした。日程の話とテクニカルレポートの説明がメインでしたから。日本サッカー協会はプレミアリーグの成果として「お互いがプレッシャーをかけあう中で、4本以上のポゼッションが40回以上あることは成果といえる。ボールを失わずにゴールを目指すサッカーを具現化している」ということが示していたけど、なぜ「4本」という数字が出てきたのか分からなかった。正直、わたしは疑問に感じました。

 課題の方は「アタッキングサードでの質。最終局面でボールを失いカウンターを受けてしまう」「カウンターを受ける理由は攻撃のバランスの悪さ。数的不利のFWが起点になっている」という話が出ていましたね。

 こういう分析も大事でしょうけど、プレミアに出る全チームが同じ方向を目指してやる必要はないですよね。昨年の戦いを見ても、クラブはポゼッションを第一に考えてくるから、高校勢は彼らの狙い通りにやらせない方法を工夫し、実践していた。ハーフウエーラインくらいで奪ってカウンターを仕掛けるチームもあれば、ゴール前でブロックを作って跳ね返してチャンスをうかがうチームもあった。そういう“カラー”を持っているのが高校サッカーの面白さだし、最大の長所。個性を持った複数のチームと戦うことで、Jクラブも成長していけるはずですよ。

――確かにそうですね。加えて、プレミアリーグの認知度が低いことも気になります

 確かにそう。「プレミアリーグがあるよ」とウチの父兄に言っても「選手権しか知りません」という人が少なくないですから。プリンスリーグはスタートから10年近く経過したのでそれなりには知られてますけど、プレミアの認知度はまだまだ。メディアにも全く出てこない。サッカー選手のキャリアを考えた時、17〜18歳は将来を左右する一番重要な時期なのに、一般の人が知らないというのは問題ですね。子供たちは大勢の人の前で緊張感を感じながら戦ってこそ成長できる。選手権出身者が日本代表へと上り詰める例が多いのも、超満員の観衆の中で真剣勝負をした経験がすごく大きいと思いますよ。

 もっと世間一般の関心を高めるためにも、チャンピオンシップを一発勝負で行う形式を変えるべき。今は12月中旬に一発勝負でやっていますが、2位同士をタスキがけで対戦させるとか、決勝トーナメントを行うとか、そういう工夫も大切。プレミアは2種で最もレベルの高い大会なのだから、選手権を超えるようなイベントに育てていく努力が大事でしょう。この大会を本当に大きくしようと思うなら、Jユースや選手権の日程をずらすとか、そこまで真剣に考えた方がいい。

選手権のレベルは年々下がっている

――2種の場合は大会の主催者が複数あり、簡単にカレンダーを整理できません

 Jユースは日本クラブユース連盟、選手権は高体連(全国高等学校体育連盟)、プレミアリーグは日本協会とそれぞれ主催者が違うからね。この複雑な状況を整理できるのは協会だけだとわたしは思います。

 実際、高体連の中にいると「選手権は100年の歴史があるから動かせない」「インターハイは絶対にやめられない」という意見が本当に根強い。だけど、わたしも高校サッカーの現場にいるからよく分かりますけど、選手権のレベルは年々下がっている。2種で最もレベルの高い大会はこのプレミアなんです。だからこそ、本当に最高峰のイベントに育て上げる必要がある。協会は自分たちが積極的に動いて、それ以外の大会をどうするか考え、整理する方向に持っていくべきですね。

――初年度のプレミアリーグを戦ってみて、ほかに気づいた点はありますか?

 1年かけて東日本のあちこちに行くことで、コンディション調整はすごく勉強になりました。昨年のスタート当初に札幌へ行った時はまだ雪が降っていて「こういう環境の中でやらないといけないのか……」と思ったし、対策を練る必要があるなと再認識しましたね。福島に前泊で行った際は食事を取りすぎてしまい、翌日思うように動けなくなるというミスもありました。そんな経験をしながら、1年コンスタントに力を発揮するためにいろいろ模索できるのがプレミアのいい部分。ただ、ほかの監督さんも言われてますが、夏場は選手の体調を考えてナイターでやらないといけないでしょうね。

 それと、中断が何度も入るようなリーグ形式は好ましくない。今のプレミアリーグは4月に始まって5月に中断、高校総体の予選が終わった7月に再開されて夏休み期間に中断、8月末に再開されて、Jユースや選手権予選が佳境に入る10月中旬から11月にまたも中断となり、12月に終盤戦が行われるカレンダーになっていますからね。やはり2種全体のカレンダーを見直して、選手にとって何が一番いいのかを再検討すべきですね。これだけ試合が多いと学業との両立も大変で、ウチの生徒たちも金曜日から月曜日まで勉強に身が入らない感じがある。こういう問題点についてみんなで意見を出し合って、もっといいリーグにしていく必要がありますね。

――最後に、今季の流通経済大柏の目標は?

 もちろん大目標は優勝。小目標は残留です(笑)。それだけやってみなければ分からないということ。昨年の経験から言うとJユースは序盤から飛ばしてくるんで、前期をしのぐことがカギになると思います。

 とはいえ、今年の春のフェスティバルを見るとJユースも昨年ほど良くないのかな。今年は高校勢にもチャンスがありそうです。ウチにも3年生に小林大地というテクニシャンのMF、武田将平というFWとボランチの両方できる選手がいますし、新2年生にU−17代表候補のMF青木亮太、ボランチの小泉慶、新1年生に山内速人、儀保幸英というFWと可能性のある選手が結構います。彼らの成長に期待しながら、今季も勝利にこだわって戦いたいと思っています。

 個の力で勝るJユースに挑むことで、高校側が学べることは少なくない、やはりプレミアリーグは両者混在の中で戦った方が双方にとってプラスなのだ。しかしながら、大会参戦に当たって、財政的に脆弱な高校側が費用負担で苦しんでいるのも事実。公立でも私立でも公平に戦えるように環境を整備することは早急のテーマだろう。選手の成長のためにも、大会の認知度アップにも取り組む必要がある。そういう努力があってこそ、プレミアリーグは本物の2種最高峰の大会になるはずだ。

<了>

※著者が昨年末に上梓した『高校サッカー監督術(カンゼン刊)』で本田先生のユース育成の現状についての考え方が掲載されています。

高校サッカー監督術

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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