高校側から見るプレミアリーグの利点と改善点=流通経済大柏高校・本田裕一郎監督インタビュー

元川悦子

プレミアリーグの利点と改善点を流通経済大柏・本田監督に語ってもらった 【元川悦子】

 4月15日に開幕したリニューアル2年目の高円宮杯サッカーリーグU−18プレミアリーグ。初年度はJクラブ11、高校8、クラブユース1チーム(三菱養和SCユース)でスタートしたが、東日本・西日本ともにJクラブが上位を独占。高校勢が1校減って今季を迎えた。優れたタレントの大半がJクラブに進むようになった今、高校勢がプレミアに参戦し続けるのは非常に難しいテーマだ。Jクラブにはない費用負担の問題も抱えながら、彼らは生き残り策を必死に模索している。

 高校側にとって、プレミアリーグの良い面、悪い面はどんなところにあるのか。毎年のようにプロ選手を輩出している流通経済大学付属柏高校の本田裕一郎監督に話を聞いた。

Jユースから「勝たなくてもいい」というムードが感じられた

――本田先生はプレミア元年だった昨季リーグ戦がスタートした直後、「Jユースと高校の実力差が大きすぎて、将来的には高校がいなくなってしまう」という危機感を訴えていました。それについてはいかがですか?

 確かに昨年のリーグ開始当初はそう考えていました。でも、高校チームが徐々にJクラブとの戦い方を覚えてきたのは、わたし自身にとっても驚きだった。ポゼッションしてくる相手に対して何をすればいいか考えられるようになったのは、大きな進歩でしたね。

 夏場の追い込みを経て、高校チームは後期になってグーンと伸びる。1学期は3年生中心でも、後期に入ると1〜2年生をミックスしてチームを飛躍させていくので、チームの総合力も向上します。そうやって力を蓄えながら、「Jクラブと戦う時は後半勝負だ」と学習できた。Jクラブは後期に入って思うように勝ち点を伸ばせなくなったチームが多い。ポゼッションサッカー対策を採れるようになったのは、高校サイドの収穫でしょう。

 1年間のこうした変化を見ることができたので、「このままでは高校がダメになる」という危機感は最初ほどはなくなりました。でも高校勢にとって今が頑張り時なのは変わらない。優れたタレントがJクラブを選ぶケースが圧倒的に多いですからね。

――それ以外に高校とJクラブの違いを感じる場面はありましたか?

 Jユースの方からは「勝たなくてもいい」というムードが感じられましたね。「個人能力の高い選手に実戦経験を積ませて、トップに送り出せればそれでいい。優勝とか準優勝とかは関係ない」といった考えを持っている指導者も少なくなかった。だけど、サッカーは勝ち負けのスポーツ。勝利にこだわってこそ選手は伸びるし、スーパーな人間も出てくる。わたしはそう信じてます。

 プロ予備軍であるJユースに対して、アマチュア軍団の高校は必死になって勝つ方法を考えている。そうしないと子供は強くならないし、たくましさも養われない。指導者が負けていいなんて考えていたら、子供たちに甘えが出るだけ。指導者の情熱が伝わって初めて、子供たちのメンタル面も鍛えられるんです。

 このようにJユースと高校は少し価値観が違います。そういうチーム同士が真剣勝負の場でぶつかり合うことはすごくいいこと。お互いが切磋琢磨(せっさたくま)しあえるのが、プレミアリーグのメリットじゃないかな。

Jユースと高校が確実に混在できる体制を

――本田先生は高校とJユースの両者を共存させるために「高校枠」を設けることを提案されていらっしゃいましたが、その考えに変わりはないですか?

 将来的にはフラットな競争でいいですが、今はまだ大会が始まったばかりだし、Jユースと高校がお互いのことをもっと勉強すべき時期。3年間とか期間限定でいいので「10チームのうちクラブが6、高校が4」といった枠を設け、両者が確実に混在できる体制を整えた方がプラスだと考えます。数の見直しは成績や力関係を考えながら随時やっていけばいい。プレミアリーグがJクラブだけになってしまったら、Jユースカップとの差別化もできなくなるし、お互いのいいところを吸収しあう機会もなくなる。そのデメリットを考えて、策を講じるべきだと思いますね。

――異なる環境にいる高校とJクラブが切磋琢磨できるのはプレミアリーグのメリットですよね。京都サンガなどは学校・寮・クラブの活動がほぼ無償で、エリートを育てるシステムが整備されたといいます

 京都のユースに入れば、選手は3年間は確実にいられるんですよね? それでいいのかな。15歳の時点ではスーパーでも、途中から下降線をたどる子もいるし、怠ける子も出てくる。それなのに、3年間一度も篩(ふるい)にかけられない状態はどうかなと思います。

 FCバルセロナの下部組織では、今日いた子が明日はいないというのが日常茶飯事。学校は継続できてもチームは出されるとか、そういう厳しさがないとプロとして通用しない。「お金はすべて出しますし、3年間面倒を見ます」という形では、真のハングリー精神は育たない。いつ切られるか分からないピリピリした環境にしないと、本物のプロは育たないでしょうね。

 選手の面倒を見るなら、ユースだけでなく、ジュニアから始めるべきですね。本当の厳しさは高校3年間だけでは身につかない。幼いころからサバイバルの環境に放り込むべきというのがわたしの意見です。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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