もう一つの希望の星・ベガルタ仙台レディース=休部、チーム移管乗り越え再スタート

小林健志

サポーター、スポンサー、行政……オール仙台で門出を祝う

なでしこジャパンにも選出された長船。仙台ダービー後は「グッと来て本当に力になった」と語った 【写真:杉本哲大/アフロスポーツ】

 この日は仙台でのチームお披露目を祝うかのような澄み切った青空が広がった。スタジアムにはベガルタゴールドのTシャツやレプリカを着たサポーター、対戦相手の常盤木学園高の女子生徒ら多数の観客が詰めかけ、入場を待つ長い行列ができた。観客数は実に6532人。この観客数が、仙台レディースへの地元民の期待を物語っていた。

 ゴール裏にはレディー・ガガをもじった「LADY VEGA」の横断幕が貼られ、選手たちがピッチに姿を現すと、「サッカーを続けてくれてありがとう」、「仙台で俺達と歴史を築こう」という横断幕が掲げられた。また開幕前に右膝前十字じん帯断裂の重傷を負った田原のぞみに対して「のぞみ 俺達は復帰まで待ってるぜ」という横断幕も掲げられた。仙台サポーターはケガしている選手まで含めて彼女たちを大歓迎で迎え入れた。

 選手の勤務先が作成したと思われる個人横断幕も掲げられていた。ピッチにはまるでJリーグの試合を思わせるようにスポンサー企業の看板も並んだ。そして、この試合はスポンサー企業の1つが冠スポンサーにつき、花束贈呈やキックインイベントを行った。試合前には奥山恵美子仙台市長が駆けつけてあいさつ。サポーターのみならずスポンサーや行政も一緒になった「オール仙台」でこのチームを支えようとする温かい雰囲気がスタジアム内に満ちていた。

場内一周で涙する選手たち

 試合は立ち上がりから地力に優る仙台レディースがチャンスを量産したが、0−0で迎えた後半開始直後の46分、道上彩花にゴールを決められ、常盤木学園高に先制を許した。しかし、絶対に勝ちたい仙台レディースは67分に下小鶴のシュートを相手GKが弾いたところを伊藤美菜子がゴールに押し込み同点に。スタジアムは大いに沸き返った。その後は共にゴールを奪えず1−1のドローに終わった。

 試合後はお互いのサポーター同士がエール交換。仙台レディースの選手たちが場内を一周した。場内を一周する際、温かい声援を浴びる選手たちの中には涙を見せる選手もいた。同点ゴールを決めた伊藤は「グラウンド一周している時はサポーターの応援に感動してグッとくるものがありました。『サッカーを続けてくれてありがとう』という横断幕を見た時が一番グッと来ました」と思いを語った。

 試合を振り返り、千葉監督からも選手からも出た言葉は「プレッシャー」「硬さ」だった。あまりにも多くの人に温かく応援してもらったことで、逆に勝たなければという硬さから「早くゴールしたいという焦りから急ぎ過ぎた」(千葉監督)試合になった。今後、公式戦を重ね、その雰囲気に慣れていけば、のびのびとプレーすることができるだろう。圧倒的にボールを保持した試合内容を見れば、チャレンジリーグ優勝・1年でのなでしこリーグ昇格は現実的な目標だ。

「あんな大勢の人が女子サッカーを見に来てくれるのはなかなかないことなので、グッと来て本当に力になりました」(長船加奈)、「経験したことがなくて鳥肌が立ちっぱなしでした。本当に頑張らなければいけないという思いにさせられました」(下小鶴)、「ピッチに出た瞬間に感動してサポーターの声援が力になりました」(伊藤)と、選手たちは皆、もう一度サッカーができること、たくさんの声援への感謝の言葉を述べた。

 対戦相手の常盤木学園高もまた「かつてない人数の中で試合ができたのは、わたしたちにとってうれしいこと。常盤木も女子サッカーで頑張っていることを分かってくれたらと思います」(阿部由晴監督)と、多くの観客の中で試合ができたことを喜んだ。6000人を超える人が仙台を本拠地とする女子サッカーチームの試合を観戦したということは、宮城の女子サッカー界に新たな歴史を刻んだ。

 今後ホームゲームは震災被害の大きかった宮城県沿岸地域のほか、東電マリーゼの本拠地福島県でも予定されている。選手たちにはまず思う存分サッカーに集中してもらい、仙台の人たちみんなで温かく彼女たちを支えていく。この関係を継続し、彼女たちが懸命なプレーを見せ続けることで、福島も仙台も被災地全体が元気になるはずだ。

 かくしてベガルタ仙台レディースの歴史は始まった。この歴史が幸せな歴史になることを心から願っている。

<了>

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著者プロフィール

1976年、静岡県静岡市清水区生まれ。大学進学で宮城県仙台市に引っ越したのがきっかけでベガルタ仙台と出会い、2006年よりフリーライターとして活動。各種媒体でベガルタ仙台についての情報発信をするほか、育成年代の取材も精力的に行っている

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