バレーボール界に疑問を投げ掛ける堺ブレイザーズ=地域密着型クラブとしての挑戦(1)

市川忍

会員減少の打撃と選手からの提案

堺では試合の後、選手がグッズ販売の手伝いをするという営業協力も行われている 【SAKAI Blazers】

「最も大きな課題はサポーターズクラブ会員の減少です。多い時で2900名ほどの会員がいましたが、徐々に減って、現在は2100名です。いろいろな原因が考えられます。まずは第12回(05−06シーズン)Vリーグ以降、優勝決定戦まで勝ち上がっても優勝できなかったこと。そして日本全体の不況、男子バレー人気自体の低下。ブレイザーズの人気選手の引退なども原因の1つかもしれません」

 サポーターズ会員の減少は、チームにとって大きな打撃だと小田は続ける。
「特に一昨年から昨年にかけては、『厳しい決算になる』『予算を達成するために、何とか力を合わせるしかない』と、クラブの社員、チームスタッフだけではなく、選手にも話しました。そんな中、10−11シーズンの開幕前だったでしょうか、選手のほうから企画書を出してきたんですよ。“自分たちにできることは何か”というテーマで、いろいろな提案が書いてありました」

 選手からの提案の中で、すぐに採用されたものが2つ。1つは営業協力である。ブレイザーズの試合が開催される会場には、オリジナルグッズの販売所が設けられている。試合の後、選手がそこに顔を出し、グッズ販売の手伝いをするというものだ。その場でサインに応じたり、ファンと会話をすることで、少しでもグッズ売り場に人を集めようと考えたのだ。

 そして、もう1つが、選手が持ち回りでブログを書くことだった。1週間に一度、公式ホームページ内に設けられたブログを通して生の声を届けることで、応援に来られないファンには近況を報告し、会場近郊のファンには週末にVリーグが開催されることを思い出してもらおうと考えたのである。ブレイザーズスポーツクラブ事業担当部長の清川健一は言う。

「ブログに関しては以前、選手の書いたブログが炎上した経験があり、また同じことが起こるのではないかと、とても敏感になっていました。選手に本業以外で負担をかけたくないという思いもあります。ただ普段、スタッフが書いているブログに対し、選手が記事を書くとアクセス数が一気に倍以上に増えるんですよね。その数字はやはり見逃せない、と」

「試合を見にきてもらうために何をしたらいいか」

堺ブレイザーズは選手たちも意見を出し合い、ファン獲得のためのチャレンジを行っている 【写真は共同】

 主将の北島武は言う。
「以前までは、僕たちバレー部員が所属する強化部と事業部は別だという方針で、選手は営業活動には参加していませんでした。でも会員数が減っていると聞いて、自分たちにも何かできないかと考えたんです。選手も危機感でいっぱいでした」

 選手だけでミーティングを重ねた結果、さまざまな意見とアイデアが出た。
「優勝決定戦に出ているのにファンが減るのはなぜか」
「準優勝じゃダメなんだ」「やはり優勝しなければ」
「いや、試合以外の部分でも、もっとチームをピーアールしなければいけないんじゃないか」
「選手を身近に感じてもらうことも必要なのでは?」
 事業部へ提出した企画書には、こうしたさまざまな意見を元に練られた10項目の提案が並んだ。

  08年に堺の一員となった松本慶彦は言う。
「ファンを増やすために? 正直に言うと、ここまで深く考えたのは初めてでした。今まではとにかくバレーをしっかりやろう、それが自分の役割なんだと思ってきました。でも、ブレイザーズの選手は誰に言われるわけでもないのに、“試合を見にきてもらうためには何をしたらいいか”ということを当たり前のように考えている。このチームに来て、すごくいろいろな勉強をさせてもらっていると思います」

 五輪で金メダルを獲得している男子バレーボールは、かつては黙っていても観客が押し寄せる人気スポーツだった。しかし、時代は変わった。どうやって集客を増やすか。そもそもお客様を呼ぶ努力をしているのか――。過去の遺産に頼り、創意工夫を怠ってきたバレーボール界全体に、堺の姿勢は常に「これでいいのか」と疑問を投げ掛けているようにみえる。
 次回は、そんな堺が新たに着手したサービスについて伝える。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

フリーランスライター/「Number」(文藝春秋)、「Sportiva」(集英社)などで執筆。プロ野球、男子バレーボールを中心に活動中。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント