錦織圭が示した驚異的なフィジカルの向上と“頭のスタミナ”=全豪で手にしたかけがえのない経験と確信

内田暁

錦織が感じさせるその先への可能性

今大会の錦織は驚異的なフィジカルの向上を示し、さらなる可能性を感じさせた 【Getty Images】

 今大会の準々決勝、ここまでに14時間戦ってきた錦織は「大会開始時を100とするなら、30〜40の体力だった」と告白するも、ツアー屈指の守備力と粘り強さを誇るマレー相手に、長いラリーを打ち合った。試合開始直後の第2ゲーム、42本の強打を打ち合い走り回ったポイントなどは、ブレークを許したものの、錦織の驚異的なフィジカルの向上を何より雄弁に物語るものである。

 2時間を走り切った体力と同時に、この試合で錦織が示したのは “頭のスタミナ”だ。テニスはすべてのポイントで「次はどこに打つべきか」を常に考え、相手の動きや心を読み、自身の気持ちを切らすことなく戦い続ける究極のメンタルスポーツでもある。
 マレー戦の後半、さすがに錦織の脚力には若干の衰えが感じられたが、どこに打つべきか、何をすべきかという頭脳戦の面での疲労や混乱は見られなかった。08年の全米で、敗戦後に「体というより、頭が疲れていた」と疲労困憊(こんぱい)の表情を見せた面影は、まるでなかった。

「これまではフルセットを戦った次の日は動けないほど体が痛かったのに、今回はそんなことがない。自分でも驚くくらいで、これは自信になった」
 マレー戦後に残したこの言葉に、負け惜しみも自身への過大評価もないはずだ。それは、今大会での錦織の戦いを見てきた者なら、誰もが感じたことである。

 往年の大選手であるジョン・マッケンローや、マルチナ・ナブラチロワらをも魅了した、錦織の天性のセンス。その才能を燃やすには膨大なエネルギーを要したが、燃料タンクの許容量は急激に増えつつある。

 ベスト8という高みに至ってなお、その先への可能性を大いに感じさせる全豪での戦いの終焉(しゅうえん)。
 それが、何よりうれしい。

<了>

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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