錦織圭「もっと上を見ている」 積み重ねた自信とベスト8への可能性=全豪テニス

内田暁

窮地からの挽回を可能にした心の強さ

4回戦で錦織が挑戦するのは世界ランキング6位のツォンガ 【Getty Images】

 3回戦のベネトウ戦も苦しい試合であり、だからこそ錦織の成長を顕著に浮き立たせる一戦でもあった。試合前から「相手はストロークがいい。我慢が求められる長いラリー戦になるだろう」と予想していた錦織は、自らの言葉を証明するかのように、長いストローク合戦にも気持ちを切らさず、追いつ追われつの展開のなかから、重要な局面でポイントを手中に収めている。

 この「つなぐ場面と攻める局面を見極める」こと、そして「自分はリスクを犯さず、相手に“負けさせる”」ことこそが、錦織が昨年一年間で、重点的に取り組んできた課題であった。そして今の錦織には、自身を世界の24位にまで押し上げた実績がある。第3セットで2−5と追い詰められ、「今日は負けるかな……という考えも何度か頭をよぎった」と言う窮地からの挽回を可能にした心の強さは、昨年終盤に世界ランキング1位のノバック・ジョコビッチ(セルビア)らを破ってきたという、実績に裏打ちされた自信だろう。 

 ベスト16――128人いた参戦選手も次々とふるいにかけられ、その数はわずか一握りに絞られた。錦織にとっては、08年の全米オープン以来2度目の到達点ではあるが、「あの時は夢みたいな気分だったが、今はもっと上を見ている」と、3年前との自身の違いを明言する。

未知の領域の前に立ちはだかるツォンガ

 その見据える未知の領域の扉の前にドンと立ちはだかるのは、4年前の全豪オープン準優勝者のジョーフィルフリード・ツォンガ(フランス)。昨年10月の上海マスターズ、そして今大会の直前に行われたエキシビションマッチでは、錦織が勝利している相手である。

 だが、四大大会の4回戦となれば、それらの過去は大した意味を持たない。

 当然、ツォンガにも油断はない。「ニシコリはフォアもバックも強烈。とても危険な相手だ」とツォンガが言えば、同胞のベネトウは「ケイはバックハンドが強烈で、フットワークもいい。長いラリーになると、どんどん追い詰められてしまう」と敗因を振り返った上で、ツォンガに「フォアで積極的に攻め、ポイントを短く終えるようにするべき」とのアドバイスを送ったという。

 初戦と3回戦でフランス人を破った錦織に対し、国の威信をかけた包囲網が張られた感があるが、相手の出方は錦織にとっても想定内。

「今大会のツォンガの試合を見てきたが、調子がいいしサーブもドカンドカンと入っている。攻撃的にくるだろうから、コーチと相談して作戦を練りたい」と、頭はすでに次の試合へと切り替わっている様子だ。

 昨年末、錦織はトップ10の選手を次々と破りながらも、同時にロジャー・フェデラー(スイス)の早い攻撃の前に完敗を喫し、「もっと自分から攻める必要性も感じた」と口にしている。

 攻撃的に来るだろうツォンガに対し、従来のように多彩なショットと戦術の妙で応じるのか? それとも自らリスクを負い、機先を制しにかかるのか?

 未知の世界への扉を開く鍵は、テニスそのものを次の次元に上げるべく、一歩を踏み出す勇気かもしれない。

<了>

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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