東龍が史上初の4連覇、男子は大村工が2度目V=春高バレー

田中夕子

大村工、部員49人全員でつかんだ勝利

部員全員で優勝をつかんだ大村工 【坂本清】

 女子の東龍が前人未到の4連覇を成し遂げたのとは対照的に、近年の高校男子バレーの戦力図は混沌(こんとん)としている。昨年の春高バレーは東京第2代表の東亜学園が制し、昨夏の高校総体は創造学園(長野)が初制覇、秋の国体(10月・山口)は地元開催の宇部商が優勝した。

 全体を見渡しても、絶対的なエースがいるわけではなく、どこが勝ってもおかしくない。そんな“戦国”大会を制し、悲願の初優勝を遂げたのが大村工(長崎)だった。
 
 決して派手さはない。

 サーブレシーブもこなす1メートル88センチのエース・冨永航一が攻守の軸ではあるが、絶対的なエースと呼ぶには、いささか迫力に欠ける。スタメンの平均身長は182cmと、格段高さがあるわけでもない。

 勝因は何か。そう問われた選手たちは、口をそろえてこう言った。

「49人の部員全員でつかんだ勝利です」
 
 春高バレー出場が決まってから、レギュラー組は平日の練習でゲーム形式の実戦練習を繰り返し、土日は他県のチームと練習試合で強化を図る。一方、控えに回る選手たちはその間、長崎市内のショッピングモールや街頭で遠征費用を少しでも軽減させるためにと、募金活動を行ってきた。
 伊藤孝浩監督が「チームのまとめ役」と全幅の信頼を寄せる3年生の中島大地が言う。
「自分たちが練習している間に、寒い外で『自分たちにできることだから』と募金活動をしてくれた。その感謝を表すには、試合で勝つしかないと思っていたし、春高バレーで勝つために、今まで以上にお互いが思いをぶつけ合うようになりました」

メンバー全員で対戦校を徹底分析

コート内外で抜群の一体感を見せた大村工 【坂本清】

 練習試合や公式戦で集めたデータをメンバー全員で分析し、自分たちの何が悪かったか。負けた原因、勝った要因は何か。意見を出し合い、次につながる策を徹底的に話し合った。春高バレー期間中も例外ではなかった。対戦校のビデオを見てブロックや攻撃のポイントを監督が提示する学校が多数を占める中、大村工の選手たちは伊藤監督からの指示に加え、選手同士でも次戦への対策を練り、確認し合って試合に臨んできた。

 たとえば、創造学園との決勝戦。192センチの長身セッター・渡邉峻や、エースの柳沢広平など警戒すべき選手は多くいるが、ポイントとしたのはサーブレシーブの大半を担い、機動力を生かしてあらゆるタイミング、場所から攻撃を仕掛けてくる8番の大槻大地だった。
 いかに大槻を封じるかが、勝利を引き寄せる鍵になる。そう考えた選手たちは、徹底してサーブを大槻に集めた。2セット目にセンターの小林之紘が負傷退場したことに加え、大槻にサーブレシーブのストレスがかかることで、攻撃参加がわずかに遅れる。その隙を逃さず、ブロックポイントを量産した大村工が高さで勝る創造学園にフルセット勝ちを収め、8大会ぶり2度目の優勝を成し遂げた。

「選手たちが自主的にやったこと。8番が仕事できない環境に持っていければ、と私も思ってはいましたが、指示する前に選手たちが動いた。『でかした』という気持ちでいっぱいです」

 365日、練習にほぼ休みはない。「ボロ雑巾になるまで練習させた」選手にとって、時には“鬼”にも見える監督から、選手たちに与えられた初めての合格点だった。

<了>

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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